このページの要点
- 面貸しには、施術者が席料を払う「施設利用型」と、店の管理下で施術させる「業務委託型」がある。
- 業務委託型では、看板・住所・鍵の専有を禁じるなど占有を与えない設計にする。ただし実態が賃貸借なら賃貸借と扱われる。
- 面貸しの美容師は美容所の従業者として届出事項に関わり、美容師が常時2人以上なら管理美容師が必要になる。
- 店が指導・是正を強めるほど雇用と評価されやすくなる。フリーランス法が適用される場合は、取引条件の明示などが必要。
面貸しの二つの組み方
| 項目 | 施設利用型 | 業務委託型 |
|---|---|---|
| お金の向き | 美容師が店に席料・使用料を払う | 美容師が店に「業務と付随する便益の対価」を払う(最低保証額+変動額など) |
| お客様 | 美容師が自分で集め、自分の名義で契約する | 店の業務として施術するため、顧客情報は店の指示に従って扱う |
| 店の関与 | 原則として施術の方法に口を出さない | 店の管理下で業務を行い、店が指導・是正を求められる |
| 看板・住所 | 美容師の屋号を出すことを認める例が多い | 看板・営業上の住所・郵便物の送付先としての使用を禁止する |
| 主なリスク | 物件の転貸禁止に触れる、賃貸借と評価される | 雇用と評価される、業務委託の実体を問われる |
どちらを選ぶかは、物件の契約で第三者の使用がどこまで許されているか、店が施術の品質にどこまで関わりたいか、で決まります。大家の承諾が得られるなら施設利用型、転貸が禁止されていて承諾も得にくいなら業務委託型を検討する、というのが一つの目安です。施設利用型の契約書の骨組みはシェアサロン利用契約書のページ、大家の承諾を得て転貸借として組む方法は間借り契約書・転貸の承諾のページで解説しています。
業務委託型で「占有を与えない」設計
事務所が作成した業務委託型の面貸し契約書では、まつげ・眉・メイクの施術者が店舗の一角を使う形について、場所の占有を一切与えないことを、次のように徹底していました。
- 契約の性質として、賃貸借・使用貸借その他名称を問わず、占有を伴う使用の権原を与えないことを宣言する
- 施設の使用は、業務の遂行に付随する一時的かつ非独占的な利用に限る。施術者は占有権・賃借権その他の権利を取得せず、第三者にも主張しない
- 看板・表示物の設置、郵便物の送付先や営業上の住所としての使用、常時の滞在、長時間の連続使用、鍵の専有管理を禁止する
- 店は自ら使うことも、別の施術者に使わせることもできる。事前の通知なく立ち入り、使用状況を確認し、改善を指示できる
- 支払う金銭は賃料ではなく業務と付随する便益の対価であり、施設を使った程度だけを理由に支払いを争わない
- 店が借りている物件の賃貸借契約に違反する行為、または違反のおそれのある行為を、催告なしの解除事由にする
- 再委託や名義貸し(第三者に実質的に業務をさせる、自分の名義を使わせる)を禁止する
条文例:施設の利用の範囲
乙による本店舗の利用は、本業務の遂行に付随する一時的かつ非独占的なものに限られ、乙は、本店舗について占有権、賃借権その他いかなる権利も取得しない。
乙は、本店舗に看板その他の表示物を設置し、本店舗を郵便物の送付先若しくは営業上の住所として使用し、又は本店舗の鍵を専有して管理してはならない。
甲は、本店舗の使用の時間、方法及び範囲を、甲の業務上の必要に応じて変更し、又は制限することができる。
名目より実態で判断される
ここが最も大切な点です。契約書で「賃貸借ではない」と何度書いても、実際には週の大半を同じ席で施術し、私物を置き、鍵を持っているなら、建物の賃貸借と評価される余地があります。建物の一部であっても、独立して排他的に使える部分であれば、借地借家法の「建物」の賃貸借として扱われることがあります。その場合、借地借家法30条により、更新や解約の制限について借家人に不利な特約は無効になります。
事務所が点検した法人向けの時間貸し契約でも、当初の案にあった「借地借家法の適用を受けないことを承諾し、その適用を主張しない」という文言を外し、「一時的な利用の許諾であり賃貸借ではない」「物権的な権利を有しない」という確認にとどめました。適用を合意で外せるかのような書き方は、かえって契約全体の信用を下げるからです。
| 事情 | 占有を否定する方向 | 占有を肯定する方向 |
|---|---|---|
| 使う席 | 日によって店が指定する | いつも同じ席を使い、その席が実質的に専用になっている |
| 時間 | 予約の入った時間だけ | 営業時間中は常に滞在している |
| 鍵 | 店のスタッフが開け閉めする | 施術者が鍵を持ち、一人で出入りする |
| 表示 | 店の名前だけ | 施術者の屋号の看板・名刺に店の住所 |
| 私物 | 施術道具を毎回持ち帰る | 棚・ワゴンに私物を置きっぱなし |
契約書を業務委託型で作るなら、実際の運用も表の左の列に合わせます。運用を変えられないなら、無理に業務委託型にせず、大家の承諾を得て施設利用型(場合によっては承諾を得た転貸借)として組むほうが、結果的に安全です。また、占有を否定する設計をとるなら、「貸与」「賃料」「専有」「入居」「家賃」といった賃貸借を連想させる言葉を契約書から外しておきます。
「お金を払う側が受託者」という形の注意点
業務委託型の面貸しでは、業務を受ける側(施術者)が、業務を任せる側(店)にお金を払うという、通常の業務委託とは逆の流れになります。しかも施術の相手は施術者自身が集めたお客様であることも多く、「店が何を委託しているのか」という実体が問われる余地があります。
- 店が施術者に指導・是正・業務停止を求められる条項を厚くすると、占有の否定には有利に働く一方、指揮命令があるとして雇用(労働者)と評価される方向にも働く
- 施術者を独立した事業者と位置づける条項と、店の管理下で業務を行わせる条項が、同じ契約書の中で緊張関係に立つ。どちらを優先する設計なのかを決めておく
- 施術者が従業員を使わない個人など(特定受託事業者)で、店が施術という役務の提供を委託している実態があれば、フリーランス法の「業務委託」(同法2条3項2号)に当たり、取引条件の明示(同法3条)などの義務が生じうる。店が従業員を使う事業者で、6か月以上続く業務委託を解除する場合や更新しない場合は、原則として30日前までの予告が必要(同法16条)
美容所の届出と管理美容師
面貸しの美容師は、店の美容所の中で施術します。美容所の届出事項には従業者の氏名も含まれるため(美容師法11条1項)、面貸しの美容師を受け入れたり入れ替えたりするたびに、変更の届出が必要になる場合があります(同条2項)。また、美容師である従業者が常時2人以上になると、美容所ごとに管理美容師を置かなければなりません(同法12条の3)。オーナーが一人で営業していた店が面貸しを始めると、この要件に当たることがあります。
面貸しの美容師を従業者として届け出るのか、どのような書類が必要かは、保健所によって運用が異なります。契約書には、届出に必要な書類(免許証の写しなど)を提出する義務と、衛生管理について店の指示に従う義務を入れておきます。美容所の開設者をオーナーと施術者のどちらにするかの考え方は、シェアサロンの始め方のページで整理しています。
お金の決め方:最低保証額・変動額・保証金
事務所が作成した業務委託型の面貸し契約書では、次のような組み合わせをとっていました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最低保証額 | 毎月一定額。当初の数か月は減額し、その後は本来の額 |
| 変動額 | 施術者の売上に応じた額を最低保証額に上乗せ |
| 費用の負担 | 水道光熱費・施術の消耗品・業務に起因する費用は施術者、ウォーターサーバーと通常の使用による修繕費は店 |
| 保証金 | 無利息。未払いがあれば充当でき、充当の順序は損害賠償金→違約金→未払金→その他。終了後、未払いがないことを確認して30日以内に残額を返す |
| 予告なしの解約 | 最低保証額1か月分に相当する違約金 |
| 将来の事業譲渡 | 店の事業を施術者に譲る場合の優先交渉権(短い回答期限と独占交渉期間を設定)と、保証金の譲渡代金への充当 |
同じ契約書では、施術者の賠償責任を「通常かつ直接の損害で、予見できたもの」に限り、故意・重大な過失のときだけすべての損害を負う、としていました。オーナー側の書類としては穏当な設計で、施術者が契約に応じやすくなる工夫です。保証金からの充当など、未払いが起きたときの手順は利用者トラブルの対処のページをご覧ください。
顧客の扱いは、型によって正反対になる
型ごとの顧客の帰属
- 業務委託型なら、施術者が業務で取得したお客様の個人情報は店の指示に従って扱い、終了時に返還・廃棄させる
- 施設利用型なら、施術者が自分で集めたお客様は施術者のものとし、店経由のお客様との線引きを決める
- どちらの型でも、店のスタッフや他の施術者のお客様を引き抜かないことを定める
退去のときに揉めないために決めておくこと
- 店の予約システムに入った施術者のお客様の予約履歴を、退去時に施術者へ渡すのか、店に残すのか
- 店の公式アカウントで施術者を紹介した投稿を、退去後に削除するのか、残すのか
- 退去後の競業を制限するなら、期間と地域を合理的な範囲に絞る(広すぎる制限は無効とされるおそれがある)
代わりの施術者・名義貸し
面貸しの施術者が休むときに、知人の施術者に代わりを頼むことがあります。お客様から見れば、誰が施術するかは品質と安全に直結します。事務所が修正したスタジオのインストラクター委託契約では、初版の「書面の承諾があれば第三者に再委託できる」を、「原則禁止。スタジオと契約関係のあるインストラクターに限り事前の承諾で一部を代行させられる。代行者の行為は自分の行為と同じ責任を負う」に改めました。この考え方は、面貸しの代行者にもそのまま使えます。
事務所の実例:面貸し・業務委託の契約書で、実際に直したこと
| 場面 | 初版の書き方 | 修正版 | 直した理由 |
|---|---|---|---|
| 代わりの施術者 | 書面の承諾があれば第三者に再委託できる | 原則禁止。店と契約関係にある施術者に限り、事前の承諾で一部を代行可。代行者の行為は本人の行為と同じ責任 | 誰が施術するかが品質と安全に直結するため |
| 共益費の支払時期 | 毎月1日に発生、月の途中の開始・終了でも日割りしない | 月末締め翌月10日払い、遅延は年14.6%。設備の目的外使用の禁止と、故意・重大な過失による破損の賠償を追加 | 報酬の支払サイクルと合わせて精算しやすくするため |
| 性質条項の文言 | (法人向けの時間貸し)「借地借家法の適用を受けないことを承諾し、主張しない」 | 「一時的な利用の許諾で賃貸借ではない」「物権的な権利を有しない」の確認にとどめる | 借家人に不利な特約は無効とされる規定があり、合意で適用を外せるかのような書き方は避けたため |
よくあるご質問
美容室の面貸しは違法ですか?
面貸しそのものは違法ではありません。ただし、店が借りている物件で転貸が禁止されている場合の大家の承諾、美容所の届出事項の変更や管理美容師の設置、雇用との区別といった点を確認しておく必要があります。
面貸しの美容師にも、店の美容所の届出は関係しますか?
関係します。美容所の届出事項には従業者の氏名が含まれ、変更があれば届出が必要です(美容師法11条)。美容師である従業者が常時2人以上になれば管理美容師を置く必要もあります(同法12条の3)。具体的な扱いは管轄の保健所に確認します。
業務委託型にすれば、転貸禁止の物件でも面貸しできますか?
契約書で占有を与えないと定めても、実態が席の専用使用であれば転貸や賃貸借と評価されるおそれがあります。運用も契約内容に合わせられるかを確認し、難しければ大家の承諾を得て組むほうが安全です。
面貸しの美容師が辞めるとき、お客様を連れて行かれるのは防げますか?
施設利用型では、施術者が自分で集めたお客様は施術者のものとするのが通常です。店経由のお客様や店の顧客情報については、契約で帰属と持ち出しの禁止を定めておきます。
面貸しの席料は、売上の歩合にしてもよいですか?
可能です。歩合の基礎となる売上の定義(税込か税抜か、割引後か)、申告の期限、虚偽申告の是正、精算の方法を契約書に定めておきます。
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