このページの要点
- 利用者は自分の名義でお客様と契約する独立した事業者であることを、契約書の前提として明記する。
- 多数の利用者が同じ条件で使うなら規約型。後から変更するには、定型約款の変更の要件(民法548条の4)を満たす必要がある。
- 事故の責任は原因で分ける。施術が原因なら利用者、施設の設備が原因なら店。「一切責任を負わない」は効力に限界がある。
- 更新を拒絶できる期限は一つにそろえる。物件の契約満了予定日を利用者に開示し、物件側の事情で終了できる条項を置く。
契約書型にするか、規約型にするか
利用者が数人で、条件を一人ずつ決めるなら、署名をもらう契約書型が向いています。利用者が多く、同じ条件で入れ替わるなら、利用規約に同意してもらう規約型が運用しやすくなります。
| 項目 | 契約書型 | 規約型 |
|---|---|---|
| 向いている場面 | 月額で長く使う利用者、条件を個別に決める利用者 | 時間貸し・会員制で多数の利用者が同じ条件で使う |
| 条件の変更 | 原則として相手の同意が必要 | 定型約款に当たる場合、民法548条の4の要件を満たせば個別の同意なく変更できる |
| 変更の手続 | 覚書・変更契約を交わす | 変更する旨・変更後の内容・効力が生じる時期を、インターネットなどで事前に周知する。利用者の一般の利益に適合しない変更(同条1項2号)は、効力が生じる時期までに周知しなければ効力を生じない(同条3項) |
| 注意点 | 利用者ごとに条件が違うと管理が煩雑になる | 変更の必要性・内容の相当性など合理性が求められる。「いつでも自由に変更できる」とだけ書いても足りない |
規約型にする場合も、料金・期間・解約手数料のように利用者への影響が大きい条件は、申込書で個別に確認しておくと、後から「知らなかった」と言われにくくなります。時間単位で多数の利用者に貸す場合の規約の細目は、時間貸しの利用規約のページで解説しています。
条文の骨組み
事務所が作成・レビューしてきたシェアサロンの利用契約書は、おおむね次の骨組みでできています。右の列は、実際の契約書で問題になった点です。
| 条項 | 書く内容 | 実際の契約書で問題になった点 |
|---|---|---|
| 目的・契約の性質 | 独立した事業者として施設を利用すること。賃貸借ではないこと | 目的条項で施設を「貸与する」と書いていた(賃貸借を連想させる) |
| 対象施設の特定 | 施設の名称・所在地・利用できる区画と設備 | 条文を減らしたときに、施設を特定する文言ごと消えていた |
| 料金・支払 | 金額、含まれるもの、支払期日、日割り、遅延損害金 | 遅延損害金を「社会通念上相当な額」としていた |
| 利用時間・予約 | 入室できる時間、予約の方法、延長 | 建物のオートロックの時間帯を書いていなかった |
| 設備・備品 | 備品の一覧、所有権、破損時の報告 | 「一式」とだけ書いて範囲が分からない |
| 禁止事項 | 危険物・臭気・騒音・無断撮影・施設名の無断使用など | 「迷惑行為」とだけ書いて、注意の根拠にしにくい |
| 資格・届出 | 業種に応じた資格・届出を利用者の責任で取得・維持 | 民間検定を法律上の資格と並べて例示していた |
| 事故・紛争 | 顧客トラブルは利用者が解決。施設側の原因は店 | 施設の設備が原因の事故まで利用者が請求できない書き方 |
| 保険 | 賠償責任保険の加入(推奨か義務か) | 加入を求めながら、補償の範囲を決めていない |
| 顧客・写真・秘密 | 顧客情報の帰属、写真の権利、秘密の管理 | 秘密保持契約で施設の写真を秘密扱いにし、利用契約の写真投稿と矛盾 |
| 期間・更新・解約 | 期間、更新の期限、解約の予告、解約手数料 | 更新を拒絶できる期限が二つ並んでいた |
| 退去・原状回復 | 明渡しの期限、原状回復の範囲、残置物 | 通常の使用による損耗を除くと書いていない |
| 反社会的勢力の排除・管轄 | 表明保証と解除、合意管轄 | そもそも条項がない |
対象施設は、条文の中で特定する
利用契約は「どの場所を、どこまで使えるか」の約束です。ところが、条文を減らしたり定義条を削ったりすると、「本施設」がどこを指すのか、契約書のどこにも書かれていない状態になることがあります。事務所が点検した時間貸しの契約書にも、定義条がなく、施設がどこを指すのかが本文から読み取れないものがありました。そのため、性質条項の中に施設名と所在地を括弧書きで入れて特定する形に整えています。賃貸借と評価されないための運用は、面貸し契約書のページで詳しく解説しています。
条文例:契約の性質と対象施設
本契約は、甲が運営する施設(名称:〇〇、所在地:〇〇県〇〇市〇〇。以下「本施設」という。)のうち、甲が指定する施術スペース及び甲が承諾した設備を、乙が自らの事業のために一時的に利用することを甲が許諾するものであり、賃貸借契約ではない。
乙は、本施設について、占有権、賃借権その他の物権的又は債権的な使用権原を取得しない。
「借地借家法の適用を主張しない」という一文を加える例がありますが、実態が建物の賃貸借であれば、更新や解約に関する規定に反する借家人に不利な特約は無効とされます(借地借家法30条。対抗力などについては同法37条)。性質の確認にとどめ、実際の使い方を契約内容に合わせることが大切です。
料金条項:含まれるもの・期日・遅延・精算
- 料金に含まれるもの(光熱水費・インターネット・共用の備品・消耗品)と、含まれないものを並べて書く
- 支払期日と方法(例:毎月20日までに翌月分を前払い、振込手数料は利用者の負担)
- 月の途中から利用を始める場合の日割りと、途中で退去した場合の返金の有無
- 遅延損害金の利率は数字で書く。「相当な額」では請求額が決まらない
- 料金を改定する場合の通知の時期と、改定に応じられない利用者が解約できる期間
売上歩合を取る場合は、精算の手順まで条文にしておきます。事務所が見た契約書では、「利用者が毎月15日までに前月の売上を申告し、店が歩合を算出して支払う。申告に不備があれば再申告させ、虚偽が判明すれば是正と追加請求をする」という流れを定めていました。ほかの分野の収益分配契約で使われる「明細を受け取ってから10日以内に書面で異議を述べなければ承認したものとみなす」という手順も、歩合型のシェアサロンに応用できます。
条文例:カード売上を店で預かる場合の精算
乙が本施設の決済端末を用いて顧客から受領した施術代金は、甲が乙のために受領するものとし、甲は、毎月末日締めで集計し、翌月末日までに、当月分の利用料及び歩合金を差し引いたうえで乙の指定する口座に支払う。
甲は、前項の集計結果を記載した明細を乙に交付する。乙が明細の交付を受けた日から10日以内に書面で異議を述べないときは、明細の内容を承認したものとみなす。
事務所が見た契約書には、カード売上を店が預かって翌月末に支払う定めはあっても、利用料・歩合と差し引けるかが書かれていないものがありました。差し引くなら、その旨を明記します。
事故と紛争の責任は「原因」で分ける
シェアサロンで起きるトラブルの多くは、利用者の施術や接客から生じます。一方で、床の段差や設備の故障のように、施設の管理に原因があるものもあります。原因で責任を分けて書くと、利用者にとっても納得しやすく、オーナーの免責条項も効力を保ちやすくなります。
条文例:顧客との契約関係と、紛争の解決
乙は、自己の名義及び計算において顧客と施術に関する契約を締結するものとし、甲は、乙と顧客との契約の当事者とならない。
乙の施術又は接客に起因して、施術中若しくは施術後の事故、体調不良若しくは後遺症、顧客からの苦情、料金の未払い若しくは返金の請求、説明若しくは同意の取得をめぐる紛争その他の紛争が生じたときは、乙は、自己の責任と費用でこれを解決する。
前項にかかわらず、本施設の構造上の欠陥その他甲の管理に属する事項に起因する損害については、甲がその責任を負う。
反対に、オーナーが守りを固めたつもりで書きすぎてしまうのが、「利用者は、利用者または顧客の行為・過失・施設の利用に起因する損害について、店または第三者に一切請求できない」といった書き方です。文言どおり読むと、施設の設備が原因の事故まで請求できないことになり、契約前に利用者から修正を求められる原因になります。また、「一切責任を負わない」という全部免責は、事業者どうしの契約でも有効性に限界があるため、「故意または重大な過失による場合を除く」と調整しておくほうが、かえって免責条項全体の効力を保ちやすくなります。
保険は「推奨」「努力義務」「義務」のどれにするか
| 段階 | 書き方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 推奨 | 賠償責任保険への加入を強く推奨し、未加入のまま事故が起きたときは利用者が責任を負う | ネイルなど比較的事故の少ない業種が中心のシェアサロン |
| 努力義務 | 施設賠償・受託者賠償などへの加入に努め、求めがあれば加入状況を報告し、証券を提出する。加入の有無で責任は軽くならない | 法人の利用者、時間貸し |
| 義務 | 対人・対物の賠償責任保険に加入し維持する。施術による事故を補償の対象に含め、証券を提出し、変更・失効時は通知する。違反時は利用を止められる | まつげ・ヘア・エステなど施術事故の影響が大きい業種、業務委託型の面貸し |
店がまとめて保険に入り、保険料を利用者に請求する例もあります。その場合、被保険者が誰か(店か、利用者か、両方か)を確認しないと、事故が起きたときに利用者の施術事故が補償されないことがあります。同じ契約に「店は一切責任を負わない」と書いてあると、保険との関係がさらに分かりにくくなります。
顧客情報・写真・施設名の使い方
シェアサロンでは、顧客情報は「出所」で分ける書き方が定着しています。利用者が自分で集めたお客様の情報は利用者のもの、店の広告や公式サイト、店の予約窓口から来たお客様の情報は店のもの、とする方法です。どちらの情報も、相手の同意なく第三者に開示しないことを、契約終了後も続く義務として定めます。
- 利用者が施設内で撮影した作品・施術の写真の権利は利用者に属し、店が自社の広告に使うときは事前に書面で承諾を得る
- 利用者が集客のために施設名・住所・店内写真を使うことを承諾制にするなら、承諾の基準(他の利用者や顧客が写り込まない、店の名前を誤認させない等)を示す
- 秘密保持契約で「施設のレイアウト・設備の配置・施術環境の写真」を秘密情報にしている場合は、利用契約で認めた写真投稿との関係を書き分ける
- 店の公式アカウントで利用者を紹介する投稿について、紹介の範囲と、退去後に投稿を削除するかどうかを決めておく
利用者向けの秘密保持契約と、退去後の制限
シェアサロン特有の悩みが、利用者が他の利用者と一緒にまとめて退去し、近くの別のシェアサロンへ移ってしまうことです。事務所が見た利用者向けの秘密保持契約では、次の行為を「秘密情報の不正使用」とみなす構成をとっていました。
- 退去後3か月以内に、施設から半径2km以内の同種のサロン・シェアスペースで開業・就業・協業すること
- 他の利用者と申し合わせて一斉に退去し、同じ施設へ移ること
- 店の顧客・他の利用者・従業員を引き抜くこと
- 価格の決め方や広告の方針など、施設で知った店の情報を自分の営業に使うこと
独立した事業者である利用者の営業の自由を制限する以上、雇用や業務委託のスタッフに対する競業避止以上に、期間・地域・対象を絞る必要があります。3か月・半径2kmという短く狭い設定は、その点を意識したものと考えられます。
違約金を行為の類型ごとに定額で定める場合、民法420条3項により違約金は損害賠償額の予定と推定されます。実際の損害を別に請求したいなら、その旨を明記しておく必要があり、合計額が過大になれば公序良俗(民法90条)に反するとして制限されることもあります。実際に一斉退去が起きたときの対処は、利用者トラブルの対処のページで整理しています。
期間・更新・解約は「期限を一つに」
| 型 | 内容 | 書くときの注意 |
|---|---|---|
| 1か月ごとの自動更新 | 前月20日までに通知しなければ1か月更新。期限を過ぎた解約通知は翌々月末に終了 | どちらの当事者からも拒絶できる形にする |
| 1年ごとの自動更新 | 満了の3か月前までに通知しなければ更新。更新時の条件変更は通知し、異議がなければ適用 | 条件変更に応じられない場合の終了手続を書く |
| 期間の定めなし | 双方とも2か月前の予告で解約できる | 予告期間中の料金の扱いを書く |
1年未満で解約すると月額3か月分の解約手数料がかかり、通知から14日以内に支払わなければ「解約は無効」とする契約書を見たことがあります。手数料を払うまで契約から抜けられない構造は、事業者どうしでも過大な拘束として争われるおそれがあります。手数料を定めるなら、金額の根拠と、未払いの場合は通常の債権として請求する形にしておきます。
条文例:店が借りている物件の契約が終わる場合
甲は、本施設に係る賃貸借契約の期間満了予定日(〇〇年〇月〇日)を乙に開示する。
前項の賃貸借契約が更新されず、又は期間の途中で終了することとなったときは、甲は、乙に対し1か月以上前に通知することにより、本契約を終了させることができる。
物件側の事情で利用者が退去を迫られるリスクを、契約の段階で開示しておく書き方です。利用者にとっても、開業計画を立てる判断材料になります。
事務所の実例:シェアサロン利用契約書で、実際に直したこと
| 場面 | 初版の書き方 | 修正版 | 直した理由 |
|---|---|---|---|
| 自動更新の期限 | 「満了日の前日までに書面で拒絶がなければ更新」と「前月20日までに更新しない旨を通知」が並存。後者は利用者からの通知しか想定していない | 「満了月の前月20日までに、いずれかの当事者から書面または店の指定する方法で拒絶がなければ1か月更新」に統一 | 期限が二つあるとどちらが優先するかで争いになり、店からの更新拒絶の根拠も欠けていたため |
| 損害賠償の対象 | 利用者が壊した場合の賠償の対象を「備品」とだけ記載 | 「建物・内装・設備を含む施設またはその備品」に拡大し、不可抗力条項を新設 | 備品だけでなく、建物自体の損傷も賠償の対象であることを明確にするため |
よくあるご質問
シェアサロンの利用契約書と利用規約は、どちらを作ればよいですか?
利用者が少なく条件を個別に決めるなら契約書、利用者が多く同じ条件で入れ替わるなら規約が向いています。規約が定型約款に当たる場合は、民法548条の4の要件(利用者の一般の利益に適合すること、または変更の必要性・内容の相当性などに照らした合理性と、事前の周知)を満たせば、個別の同意なく変更できます。
利用者のお客様が施術でけがをしたら、オーナーも責任を負いますか?
利用者が自分の名義でお客様と契約し、自分の責任で施術していることを契約書に明記しておけば、施術が原因のトラブルは利用者が解決するのが基本です。ただし、施設の設備の欠陥など店の管理に原因がある場合は、店が責任を負います。
利用者が退去後に近くで開業するのを禁止できますか?
独立した事業者である利用者の営業の自由を制限するため、期間・地域・対象を絞る必要があります。事務所が見た例では、退去後3か月・半径2km以内に限定していました。広すぎる制限は無効とされるおそれがあります。
1年未満の解約に解約手数料を取ってもよいですか?
事業者どうしの契約なので定めること自体は可能ですが、金額が過大な場合や、手数料を払うまで解約できない構造の場合は、争いになるおそれがあります。金額の根拠を示し、未払いは通常の債権として請求する形が無難です。
利用者がカードで受け取った売上を、店がいったん預かってもよいですか?
可能です。その場合は、締め日と支払日、利用料や歩合と差し引くかどうか、明細の交付と異議の期間を契約書に定めておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の施設に必要な対応は、物件の契約内容、利用者の業種、料金の受け取り方によって異なります。実例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたシェアサロン・面貸し・時間貸し・間借り・転貸借の契約書や規約を、個別の事業者や施設が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 法務省 / 公正取引委員会 フリーランス法