利用者トラブルの対処(未払い・規約違反・退去・原状回復)

契約書は、約束が守られなかった日のための書類です。オーナーがとれる手段は、契約書にどこまで書いてあるかで決まります。

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「協議する」とだけ書いた条項は、揉めたときにほとんど機能しません。まず具体的なルールを決め、決めきれない部分だけを協議に回します。

このページの要点

  • オーナーがとれる手段は、契約書にどこまで書いてあるかで決まる。「協議する」だけの条項は、揉めたときに機能しない。
  • 未払いには、前払い、利用停止、催告と解除、保証金の充当の四段階で備える。遅延損害金は数字で書く。
  • お客様の苦情は、利用者が自分の名義で契約していることを根拠に利用者へ戻す。施設が負担した費用は請求できるようにする。
  • 退去は原状回復確認書で終わらせる。残った私物を勝手に処分したり、実力で退去させたりしない。
シェアサロンや間借りを運営していると、契約書を作った日には想像しなかったトラブルが、少しずつ起き始めます。利用料の支払いが遅れる、ルールを守らない、お客様からの苦情が施設に届く、何人かがまとめて辞めていく、退去の日に部屋が片付いていない。このページでは、オーナーの立場から、利用者とのトラブルを契約書でどう受け止め、どの順番で対処するかを整理します。

トラブルの多くは「契約書に書いてあるか」で決まる

契約書は、交わした約束が守られなかった日のための書類です。利用者とのトラブルが起きたとき、オーナーがとれる手段は、契約書にどこまで書いてあるかで決まります。ここで差が出るのは、「協議する」とだけ書いた条項です。揉めている相手とは協議がまとまらないからこそ揉めているので、協議の条項は、揉めたときにほとんど機能しません。まず具体的なルールを決め、どうしても決めきれない部分だけを協議に回す、という書き方が基本です。

よくあるトラブルと、契約書で備える条項
トラブル備える条項このページの節
利用料の遅れ・未払い支払期日、遅延損害金、利用停止、催告と解除、保証金の充当未払い
ルール違反(清掃・騒音・におい・無断撮影)具体的な禁止事項、是正の求め、利用停止、解除ルール違反
お客様からの苦情が施設に届く顧客との契約当事者の明記、紛争の解決義務、費用の補償顧客トラブル
まとめて退去・引き抜き秘密保持契約、退去後の制限、違約金まとめて退去
退去日に片付いていない・物が残る明渡しの期限、原状回復の範囲、確認書、残置物の扱い退去・原状回復
物件の契約が終わる物件の契約期間の開示、予告による終了物件側の事情

未払い:止める・催告する・解除する・充当する

利用料の未払いへの備えは、次の四つの段階で書いておきます。

未払いへの対処の段階
段階契約書の書き方注意点
前払いにする毎月20日までに翌月分を前払い後払いより未払いが生じにくい。時間貸しは予約時の事前決済が確実
利用を止める未払いの間は施設の利用を止められる。その間の損害は請求できない止める前に、未払いの額と期限を書面やメッセージで通知しておく
催告して解除する支払いを催告し、7日(または10日)以内に支払わないときは解除できる催告の方法(書面・メール・指定のアプリ)を契約書で決めておく
保証金から差し引く保証金を未払いに充当できる。充当の順序は損害賠償金→違約金→未払金→その他保証金を預からない型では、この手段がない

遅延損害金は、利率を数字で書いておきます。事務所が点検した契約書には、「社会通念上相当と認められる遅延損害金」とあいまいに書かれていたものがあり、年14.6%と数字で確定させる形に改めました。利用者が事業者として契約する場合は、消費者契約法の上限(年14.6%、同法9条1項2号)は直接には及びませんが、この水準で定める例が多く見られます。料金条項全体の書き方はシェアサロン利用契約書のページで解説しています。

条文例:未払いの場合の利用停止と解除

乙が利用料の支払を遅滞したときは、甲は、乙に通知したうえで、支払が完了するまで本施設の利用を停止することができる。

乙が前項の通知を受けた日から7日以内に未払いの利用料を支払わないときは、甲は、催告を要せず本契約を解除することができる。

ルール違反:抽象的な理由で止めない

清掃をしない、においの強い材料を使う、他の利用者のお客様が写り込む動画を撮る。ルール違反への対処で大切なのは、何が違反なのかを契約書やハウスルールで具体的に示しておくことです。

  • 禁止事項は例示で具体的に書く(強い香料・アロマ・薬剤の臭気、共用部での長話・滞留、承諾のない撮影・配信・収録など)
  • 違反を見つけたら、まず是正を求め、それでも直らない場合に利用停止・解除に進む、という順番を条文にしておく
  • 「店が不適切と判断した場合」「ブランドイメージを害する場合」といった抽象的な解除事由には、具体例を補う
  • 利用停止の事由に「近隣・他の利用者から苦情が出た場合」「設備に不具合が生じた場合」まで入れると、利用者に落ち度がないのに止められる書き方になり、争いの種になる

別の業種の場所貸しの契約をレビューしたときも、「不適切と判断した場合」という解除事由に具体例を補うこと、規約を変更するときは事前に通知して一定期間後に適用することを指摘しました。オーナーの裁量が広すぎる条項は、いざ使おうとしたときに有効性を争われ、結局使えないことが少なくありません。時間貸しで特に問題になる無断延長や清掃のルールは、時間貸しの利用規約のページをご覧ください。

顧客トラブル:施設に届いた苦情を、利用者に戻す

利用者のお客様が、施術の仕上がりや体調の変化について、施設に直接苦情を言ってくることがあります。施設の看板を見て来店したお客様にとっては、施設も「お店」に見えるからです。

  • 契約書に、利用者が自分の名義でお客様と契約し、施設はその契約の当事者にならないことを明記しておく
  • お客様からの苦情・返金の請求・事故の申出が施設に届いた場合は、利用者に引き継ぎ、利用者が自分の責任と費用で解決する
  • 施設が対応を余儀なくされた場合の費用(弁護士費用を含む)を、利用者に請求できるようにする
  • 事故が起きたときは、速やかに内容・日時・被害の状況を施設に報告させる
  • お客様に対しても、施術の契約の相手は各施術者であることを、予約画面や店内の掲示で示しておく

事務所が修正した時間貸しの規約では、初版の「利用者の業務に起因する紛争は利用者が解決する」を、修正版で「施術中・施術後の事故や体調不良・後遺症、お客様の苦情、料金の未払い・返金の請求、説明・同意の取得をめぐる紛争、第三者への損害」と具体的に例示する形に改めました。施設に生じた損害についても、お客様への対応の費用、返金への対応、信用の低下、苦情への対応の費用を例示しています。

まとめて退去・引き抜きへの備え

シェアサロン特有の悩みが、利用者が他の利用者と申し合わせて一斉に退去し、近くの別のシェアサロンへ移ってしまうことです。事務所が見た利用者向けの秘密保持契約では、次の行為を秘密情報の不正使用とみなす構成をとっていました。

利用者向け秘密保持契約で定めていた制限
行為制限の内容
近隣での開業・就業退去後3か月以内・施設から半径2km以内の同種のサロン・シェアスペースでの開業・就業・協業
一斉の退去他の利用者と申し合わせて一斉に退去し、同じ施設へ移ること
引き抜き店のお客様・他の利用者・従業員の引き抜き
情報の流用価格の決め方や広告の方針など、施設で知った店の情報を自分の営業に使うこと

違約金は、競業の違反と、一斉退去・引き抜きとで金額を分けて定額にし、実際の損害がそれを上回れば追加で請求できる形にしていました。ただし、利用者は独立した事業者であり、営業の自由を制限する以上、期間・地域・対象を絞らなければ無効とされるおそれがあります。違約金は民法420条3項により損害賠償額の予定と推定されるため、実損を別に請求するならその旨を明記し、合計額が過大にならないようにしておきます。面貸しの施術者の顧客の帰属は、面貸し契約書のページで型ごとに整理しています。

退去・原状回復:確認書で終わらせる

退去の日にもめるのは、「どこまで戻せばよいのか」が決まっていないときです。

  • 明渡しの期限(指定日時まで)と、備品を元の状態にして返却することを定める
  • 通常の使用による経年劣化と、不可抗力による損耗は、原状回復の対象外であることを明記する
  • 撤去と回復が終わったら双方で状態を確認し、原状回復確認書(書面または電子)に署名する。運営側が立ち会う
  • 利用者が回復しない場合は、運営側が代わりに行い、実費を請求できるようにする
  • 鍵・カード・暗証番号の返却や無効化の手順を決める

退去後に利用者の私物が残っていた場合でも、オーナーが勝手に処分すると、後から損害賠償を求められるおそれがあります。契約書には、退去後に残った物の扱い(一定期間保管したうえで引取りを求める、引取りがなければ処分できる、費用は利用者の負担)を定めておきます。それでも、価値のある物を処分する場合は、事前に通知して記録を残すなど、慎重に進めます。

条文例:原状回復の確認

乙は、本契約が終了したときは、甲の指定する日時までに、乙の設置した物品を撤去し、本施設を原状に回復して明け渡す。ただし、通常の使用による損耗及び経年劣化については、この限りでない。

甲及び乙は、前項の撤去及び回復が完了したときは、立会いのうえ本施設の状態を確認し、原状回復確認書を作成する。

物件側の事情で、利用者に出てもらう場合

オーナー自身が物件を借りている以上、物件の契約が終われば、利用者にも出てもらうことになります。このとき責任を問われないためには、契約の段階での準備がすべてです。

  • 物件の賃貸借契約の満了予定日を、利用契約の中で利用者に開示しておく
  • 物件の契約が更新されない場合や、途中で終了する場合は、1か月以上前の通知で利用契約を終了できると定める
  • 物件の元の契約に基づいて退去を求められた場合、または元の契約が終わった場合を、利用契約の終了事由にしておく
  • 大家から間借り・面貸しの承諾を得ていることを前提に組む(無断の転貸が発覚して退去になれば、オーナーの責任を問われる)

転貸借として組んでいる場合に、元の契約が終わったとき間借り側に何が起きるかは、間借り契約書・転貸の承諾のページで解説しています。

利用者に受け入れられる契約書にする

トラブルへの備えを厚くするあまり、オーナーに一方的すぎる契約書にしてしまうと、今度は契約前の段階で、利用者から修正を求められたり、入居を見送られたりします。事務所のレビューでも、次の条項は修正の対象になりやすいものでした。

修正を求められやすい条項と、受け入れられやすい書き方
条項よくある書き方受け入れられやすい書き方
一方的な請求放棄利用者は、施設の利用に起因する損害について、店に一切請求できない店の設備の欠陥など、店の管理に原因がある損害は店が負うと書き分ける
あいまいな解除事由店が不適切と判断した場合は即時解除し、既払いの料金は返さない具体例を補い、是正の機会を設ける。店の都合による解除では日割りで返金する
解約できない構造1年未満の解約は月額3か月分の手数料。通知から14日以内に払わなければ解約は無効手数料の支払いを解約の効力の条件にしない。未払いは通常の債権として請求する
利用停止中の料金苦情や設備の不具合を理由に利用を止め、その間も料金は発生する利用者に原因がない停止の期間は、料金を減額する
継続利用の期待権の否定利用は運営上の都合で随時変更・中止されうる。継続利用・更新の期待権はない条項を削り、変更・中止の予告期間を定める

守りたい点(料金・利用時間・原状回復・事故の責任・顧客の引き抜き)を厚くし、それ以外は対等に近づける。そのほうが、結果として早く契約がまとまり、いざというときにも条項が有効に働きます。

事務所の実例:トラブル対応の条項で、実際に直したこと

初版から修正版で直したこと
場面初版の書き方修正版直した理由
遅延損害金社会通念上相当と認められる遅延損害金年14.6%あいまいな利率では請求額が決まらないため
利用停止の事由(法人向け)近隣・他の利用者から苦情が出た場合、設備に不具合が生じた場合も利用を止められる利用者の責任を問わない停止の事由を削除相手方の落ち度を問わずに止められる書き方で、締結の妨げになったため
継続利用の期待(法人向け)継続利用・更新の期待権はない条項を削除相手方の事業計画を一方的に不安定にする条項だったため

よくあるご質問

シェアサロンの利用料を払わない利用者には、どう対応すればよいですか?

契約書に従い、未払いの額と期限を通知したうえで利用を止め、期限までに支払わなければ解除します。保証金を預かっている場合は、定めた順序で未払いに充当します。前払いにしておくことが、最も確実な予防策です。

利用者のお客様から、施設に苦情の電話が来たら?

利用者が自分の名義でお客様と契約していることを契約書に明記しておき、苦情は利用者に引き継いで、利用者に解決してもらいます。施設が対応した費用を利用者に請求できるようにしておくことも大切です。

利用者が他の利用者を誘って、まとめて退去してしまいました。何か請求できますか?

利用者向けの秘密保持契約などで、一斉退去や引き抜きを禁止し、違約金を定めていれば、それに基づいて請求できる場合があります。ただし、制限が広すぎる場合は無効とされるおそれがあるため、期間・地域・対象を絞った定めにしておく必要があります。

退去した利用者の私物が残っています。処分してもよいですか?

勝手に処分すると、損害賠償を求められるおそれがあります。契約書に、一定期間保管したうえで引取りを求め、引取りがなければ処分できる、費用は利用者の負担、と定めておき、そのとおりに通知と記録を残して進めます。

ルールを守らない利用者を、すぐに退去させられますか?

契約書の解除事由に当たり、是正を求めても直らない場合に解除できるのが基本です。荷物の運び出しや締め出しなど、実力で退去させることは原則として許されないため、解除のうえで明渡しを求めます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の施設に必要な対応は、物件の契約内容、利用者の業種、料金の受け取り方によって異なります。実例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたシェアサロン・面貸し・時間貸し・間借り・転貸借の契約書や規約を、個別の事業者や施設が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 法務省 / 公正取引委員会 フリーランス法

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