このページの要点
- シェアサロン・面貸し・間借りは、物件の契約、利用者との契約、利用者とお客様の契約の三つで成り立つ。開業前に「どの型で貸すか」を決める。
- 借りている物件を第三者に使わせるには、大家の承諾が必要(民法612条)。書面で承諾を取ってから始める。
- ヘア・まつげの利用者を受け入れるなら美容所の届出が必要。オーナーが開設者なら、美容師が常時2人以上で管理美容師の設置が必要(美容師法12条の3)。
- 料金は月額・歩合・時間制などの型ごとに、含まれるものと含まれないものを契約書に書き、募集の説明とそろえる。
シェアサロン・面貸し・間借りは、どこが違うのか
同じ「場所を使わせる」取引でも、呼び方によって中身が大きく違います。契約書を作る前に、自分の計画がどの型に当たるのかを確かめておくと、後の設計がぶれません。
| 型 | 場所の使わせ方 | 利用者が払うお金の名目 | 法律上の主な論点 |
|---|---|---|---|
| シェアサロン(会員制) | 共用の施術スペースを、複数の独立した施術者が予約制や曜日制で使う | 月額利用料(+売上歩合) | 物件の転貸禁止との関係、業種ごとの届出、事故の責任分担 |
| 面貸し(既存店の一席を貸す) | 営業中の美容室などの席・ブースを、外部の施術者に使わせる | 席料・使用料、または売上の一定割合 | 美容所の届出と管理美容師、雇用・業務委託との区別 |
| ミラーレンタル・時間貸し | 1時間・30分単位で個室や席を貸す。利用者が入れ替わる | 時間料金 | 延長・キャンセル・清掃など「次の利用者」に関わるルール |
| 業務委託型の面貸し | 店の業務の一部として、店の管理下で施術させる | 業務と付随する便益の対価(最低保証額+変動額など) | 占有を与えない設計、名目と実態のずれ、労働者性 |
| 飲食の間借り | 飲食店の営業していない時間帯や空きスペースを、別の事業者に使わせる | 使用料+光熱費の按分 | 食品衛生法の営業許可の主体、大家の承諾 |
| サブリース(転貸借) | 物件の貸主の承諾を得て、借りた物件を第三者に又貸しする | 賃料 | 原契約が終わったときの転借人の地位、定期建物賃貸借の要件 |
このガイドでは、上の型ごとに必要な書類と、事務所が実際に作成・修正した契約書で問題になった点を解説しています。利用者との契約はシェアサロン利用契約書、席を貸す型は面貸し契約書、時間単位で貸す型は時間貸しの利用規約、飲食は間借り営業と間借り契約書のページをご覧ください。
オーナーが最初に確認する三つのこと
内装や料金表より先に、次の三つを確認します。ここが決まらないまま利用者を募集すると、後から契約書を直しても取り返しがつかないことがあります。
| 確認すること | 見る資料 | 決まらないと起きること |
|---|---|---|
| 物件を第三者に使わせてよいか | 自分が借りている物件の賃貸借契約書(転貸・用途・営業時間の条項) | 大家から無断転貸として契約を解除され、利用者ごと退去を求められる |
| 利用者の業種に届出や許可が要るか、誰の名義で取るか | 美容師法・食品衛生法などの規定、管轄の保健所の運用 | 利用者が営業できない、またはオーナーの名義で届出をしたために責任をかぶる |
| 利用者にどこまでの権利を与えるか | 利用契約の性質条項・利用範囲・鍵の扱い | 名目は「利用」でも実態は賃貸借と扱われ、更新や解約が思いどおりにならない |
物件の賃貸借契約を読み直す
民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ借りた物を転貸できず、無断で第三者に使用・収益させたときは賃貸人が契約を解除できる、と定めています。テナント物件の賃貸借契約にも、転貸の禁止、使用目的の限定(「美容室として」「飲食店として」)、第三者の常駐の禁止といった条項が入っているのが普通です。
判例は、無断転貸があっても、賃貸人に対する背信的な行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除は認められない、としています。ただ、これは裁判になったときの最後の防御線です。シェアサロンや間借りを始める前に、大家(管理会社)から書面で承諾をもらっておくのが確実です。
条文例:大家から取っておく承諾書の要点
貸主は、借主が本物件の一部または全部を、美容・理容・ネイル・まつげ・エステその他これらに類する施術を行う第三者(以下「利用者」という。)に、時間単位または区画単位で利用させることを承諾する。
借主は、利用者に本契約上の借主の義務と同等の義務を守らせ、利用者の行為について貸主に対し自らの行為と同一の責任を負う。
本契約が終了したときは、借主は自己の責任と費用で利用者を退去させる。
実際の承諾の範囲は物件ごとに交渉で決まります。「利用者の業種」「時間貸しか区画貸しか」「看板の設置」を具体的に書いてもらうほど、後で争いになりにくくなります。
業種ごとに必要な資格・届出
シェアサロンには、ネイル・まつげ・ヘア・エステなど、規制の違う業種が混じります。オーナーが「全部利用者の責任」と書いて済ませると、届出が要る業種の利用者を受け入れたときに、店ごと営業できなくなることがあります。
| 業種 | 主な規制 | シェアサロン・面貸しで確認すること |
|---|---|---|
| ヘアカット・パーマ・結髪・メイク(化粧) | 美容師でなければ美容を業とできない(美容師法6条)。着付けだけを行う場合は、一般に美容師免許は不要とされる。カットは理容師も行える(理容師法)。美容所は開設前に届出が必要(同法11条)で、検査を受けて確認を得るまで使用できない(同法12条) | 美容所の開設者を誰にするか、区画の構造設備が基準を満たすか |
| まつげエクステンション | 厚生労働省の通知(平成20年3月)で、美容師法上の美容に当たるとされている | 美容師免許を持つ利用者に限るか、美容所として届け出た区画で施術するか |
| ネイル(手足の爪の施術) | 一般に美容師免許・美容所の届出は求められていない | ほかの業種と同じ部屋で行う場合の衛生ルール |
| エステ・リラクゼーション・整体 | あん摩・マッサージ・指圧を業とするには免許が必要(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律1条) | 利用者が無資格で「マッサージ」と表示していないか |
| 飲食(間借りカフェ・ランチ営業など) | 飲食店営業などは都道府県知事の許可が必要(食品衛生法55条) | 許可を誰の名義で取るか、時間帯で分けた許可を保健所が認めるか |
| ヨガ・ピラティス・ダンス | 業としての許可は原則として不要 | 物件の用途制限、騒音・振動、同時に入れる人数 |
美容師法の届出や確認の手続、構造設備の基準は、都道府県・保健所設置市・特別区の条例や運用によって細部が異なります。図面を持って、開業前に管轄の保健所へ相談しておきます。
美容所の届出を「誰の名義で」出すか
ヘア・まつげの利用者を受け入れるシェアサロンで、最も見落とされやすいのがこの点です。考え方は大きく二つに分かれます。
| 考え方 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| オーナーが開設者になる | 施設全体を一つの美容所としてオーナーが届け出て、利用者を従業者として扱う | 美容師である従業者が常時2人以上なら、美容所ごとに管理美容師を置く必要がある(美容師法12条の3)。届出事項の変更(従業者の入れ替わり)の届出も要る(同法11条2項) |
| 利用者が区画ごとに開設者になる | 個室・ブースごとに利用者自身が美容所として届け出る | 区画ごとに構造設備の基準を満たす必要がある。複数の開設者が同じ建物にいる形を認めるかは保健所の運用による |
どちらを選ぶかで、利用契約に書くべき内容も変わります。オーナーが開設者になるなら、衛生管理の指示に従う義務や、従業者としての届出に協力する義務を利用者に課す必要があります。利用者が開設者になるなら、届出の完了を利用開始の条件にし、届出が取り消されたときは利用を止められるようにしておきます。
料金の型と、契約で決めておくこと
事務所が見てきた料金の決め方は、次の5つに分けられます。どの型でも、「料金に何が含まれ、何が含まれないか」を本文に書いておくことが出発点です。
| 型 | 向いている利用者 | 契約で決めておくこと |
|---|---|---|
| 月額固定(使い放題・曜日指定・時間上限) | 固定客が多く、毎週決まった日に施術する人。副業で月数十時間だけ使う人 | 上限時間を超えた場合の扱い、指定曜日の変更手続、集客支援の有無による料金差 |
| 月額+売上歩合 | 売上の波が大きい人。開業直後で固定費を抑えたい人 | 歩合の基礎になる売上の定義(税込か税抜か、割引後か)、申告期限、虚偽申告の是正 |
| 時間制(1時間・30分単位) | 施術日が不定期な人 | 最低利用時間、端数の切上げ単位、準備・片付けの時間の扱い |
| 最低保証額+変動額 | 業務委託型の面貸し | 支払う金銭が賃料ではないことの確認、当初数か月の減額、変動額の計算方法 |
| 使用料+光熱費の按分 | 飲食の間借り | 按分の基準(過去の平均額など)、超過した月の精算、ゴミ処理費 |
月額型の契約書で「電気・水道・インターネット・設備利用料を含む」と書く例がある一方、業務委託型では「水道光熱費・施術の消耗品は利用者の負担、ウォーターサーバーと通常の使用による修繕費は店の負担」と費目ごとに振り分けた例もあります。どちらが正しいということはなく、募集のときに説明した内容と契約書の記載をそろえることが大切です。
募集の説明と契約書をそろえる
利用者の募集ページでは「初期費用ゼロ」「集客サポート付き」とうたう例が多く見られます。ところが契約書を読むと、契約開始時に月額1か月分の返還しない契約手数料がかかる、という書き方になっていることがあります。利用者は事業者ですが、説明と契約書が食い違っていれば、契約の解釈や信頼をめぐって争いになる原因になります。
- 「初期費用ゼロ」とするなら、保証金・敷金・礼金・契約手数料など名目を問わず預からないことを契約書にも書く
- 契約手数料を取るなら、返還しない理由(入会時の事務・鍵の設定など)と金額を募集の段階から示す
- 「集客サポート」の中身(公式サイトへの掲載、予約システムの提供、SNSでの紹介の回数)を契約書の別表にする
- 集客サポートで来たお客様を店のものとするのか、利用者のものとするのかを、募集の段階で伝える
開業時にそろえる書類
| 書類 | 相手 | 役割 |
|---|---|---|
| 物件の承諾書(覚書) | 大家・管理会社 | 第三者に使わせることへの承諾、利用者の業種・時間・看板の範囲 |
| 利用契約書または利用規約 | 利用者 | 料金・利用ルール・責任分担・期間と解約の基本ルール |
| 秘密保持契約書(誓約書) | 利用者 | 店の運営ノウハウ・顧客情報の管理、退去後の引き抜きの禁止 |
| 施設のご利用ルール(ハウスルール) | 利用者 | 清掃・ゴミ・消毒・鍵の扱いなど、頻繁に変わる運用の細目 |
| 防犯カメラの掲示・プライバシーポリシー | 利用者・来店客 | 撮影の範囲と目的、映像の保管と提供 |
| 原状回復確認書 | 利用者 | 退去時に、どこまで戻したかを双方で確認した記録 |
利用者がそれぞれのお客様と結ぶ利用規約や施術同意書は、原則として利用者自身が用意するものです。オーナーがひな形を配る場合は、施設が施術の契約の当事者ではないことが読み取れる書き方にしておきます。
事務所の実例:開業準備の書類で、実際に直したこと
| 場面 | 初版の書き方 | 修正版 | 直した理由 |
|---|---|---|---|
| 施設の使用と開業支援をセットにした契約の契約金 | 締結後7日以内に一括払い | 締結後7日以内に半額、実際の開業日に残額 | 開業が実現しなかった場合の返金をめぐる争いを避け、利用者が契約に応じやすくするため |
| 同じ契約の支援内容 | 支援の中身は別紙に委ねる | 開業前の準備・運営体制の構築・開業前後の支援を本文に列挙し、含まれない費用(行政への申請費用、機器・消耗品、求人広告費、決済端末の費用など)を目安額付きで明記 | 別紙が作られないまま締結される危険と、費用負担の思い違いを防ぐため |
| 初期費用の定め | 「保証金・敷金・礼金は預からない」とだけ記載 | 名目を問わず預からないこと、返還請求の対象もないことを明記 | 初期費用ゼロを募集でうたうシェアサロンで、募集と契約の記載をそろえるため |
よくあるご質問
シェアサロンを開業するのに、オーナー自身に資格は必要ですか?
オーナーが自分で施術しないのであれば、施術の資格は必要ありません。ただし、ヘアやまつげの利用者を受け入れる場合は美容所の届出が必要で、オーナーが開設者になるなら、美容師である従業者が常時2人以上のときは管理美容師を置く必要があります(美容師法12条の3)。
借りているテナントでシェアサロンを始めてもよいですか?
賃貸借契約で転貸や第三者の使用が禁止されていないかを確認し、禁止されている場合は大家から書面で承諾を得てから始めます。無断で第三者に使わせると、民法612条により契約を解除されるおそれがあります。
利用者の業種が混ざっていても、利用契約書は一つでよいですか?
基本の契約書は一つで構いませんが、資格・届出・衛生管理の条項は業種ごとに書き分けます。特に美容所の届出が必要な業種と、不要とされる業種では、利用開始の条件が変わります。
シェアサロンの料金は、月額と時間制のどちらがよいですか?
利用者の層によります。固定客の多い施術者には月額、施術日が不定期な人には時間制が向いています。どちらでも、料金に含まれるものと含まれないもの、上限を超えた場合の扱いを契約書に書いておくことが大切です。
募集で「初期費用ゼロ」とうたう場合の注意点は?
契約書でも、保証金・敷金・礼金・契約手数料など名目を問わず預からないことを明記します。募集の説明と契約書の記載が食い違うと、契約の解釈をめぐる争いの原因になります。
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