このページの要点
- 病気や産休で使えない間も月額は原則として続くため、解約の期限と手数料の例外として、休会制度と事由による免除を定める。
- 休会は、枠を確保するか返すかで休会費の型が決まり、事由、期間の上限、休会中の契約期間の数え方、期限後の扱いを書く。
- 利用者が亡くなったときは、終了日、精算、返還先(連絡代表者)、私物の引渡しを書き、相続の出発点は民法896条で契約の性質により変わる。
- 保証金は返す日と差し引く項目を書き、オーナー側の事情で終わるときは、予告、停止期間の月額の不発生、日割りの返還を定める。
休会・病気・死亡について、契約書に何も書いていないとどうなるのか?
契約書に定めがなければ、民法の一般的なルールで処理されますが、そのルールは、契約を結ぶときに考えていなかった場面をうまく割り振れません。月額型のシェアサロンは、場所を使える状態に置くことへの対価を払う仕組みです。利用者が来られなくなっても使える状態は続いているので、月額は原則として続きます。反対に、オーナーが場所を用意できなくなったときは、利用者が支払いを拒める場面が出てきます。
スクールやジムの休会は、会員が「お客様」で、休めば自分の受講が止まるだけです。シェアサロンの利用者は事業者で、予約の入ったお客様、前払いのチケット、顧客の情報を抱えています。契約書は、利用者とのお金の話にとどまらず、その先のお客様への連絡と顧客情報の扱いまで届かせておく必要があります。
| 事由 | 決めておきたいこと | 決めていないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 利用者の休会・病気・産休 | 休める事由と期間、休む間の料金、解約の期限と手数料の例外 | 使わないまま全額を払い続けるか、連絡なく来なくなる |
| 利用者の廃業 | 通常の解約と同じ扱いか、保証金と前払い分の精算、お客様への連絡 | お客様の前払い残高の問い合わせが、オーナーに持ち込まれる |
| 利用者の死亡 | 契約が終わるのか相続人に続くのか、精算の窓口、私物と鍵 | 相続人が複数で窓口がなく、保証金と私物が宙に浮く |
| オーナーの休業・廃業・死亡 | 利用者への予告、前払い分と保証金の返還、物件の契約との関係 | 利用者に損失が出て、返金の請求がオーナーや相続人に向かう |
実務では、「解約は前月の所定の日までに通知する。期限を過ぎたときは翌々月末に終了する。支払済みの料金は返還しない」という定めだけがあり、休会・死亡・運営側の終了に触れていない月額型の契約書が見られます。契約書全体の骨組みはシェアサロン利用契約書・利用規約の作り方、料金と売上歩合の精算は料金プランと売上歩合の精算にあります。このページは、そこで扱いきれない例外の場面に絞ります。
病気やけが、産休・育休で使えない間も、月額は払い続けるのか?
契約書に例外がなければ、払い続けるのが原則です。月額は場所を使える状態に置くことへの対価で、体調不良で来られないのは利用者側の事情だからです。使った時間や回数に応じて払う型なら、使わなかった分は発生しません。ただ、月額型でも、次の三つが重なると、利用者の負担は大きくなります。
- 解約の通知期限。終了を希望する月の前月の所定の日までに通知する定めだと、入院が決まったのが期限の後なら、使えない月がもう一つ増えます。
- 1年未満の解約手数料。月額の数か月分の手数料があり、支払いを解約の効力の条件にする書き方だと、払えない間は解約できません。
- 返金しない旨。支払い済みの月額は、理由を問わず戻らないと書かれているのが通常です。
病気で入院したときの負担の比べ方(仮の数字)
Aの合計は30万円、Bは3万6千円で、差は26万4千円です。数字は仮ですが、Aは「やめたい」と伝えただけで高額になる構造です。
利用者が事業のために契約する個人であれば、消費者契約法上の「消費者」には当たらないのが原則で(同法2条1項)、解除に伴う違約金の上限を定めた同法9条1項1号は直接は及びません。それでも、違約金は賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、公序良俗に反する法律行為は無効です(同法90条)。過大な手数料は争いになるおそれがあり、借りる側の見方も借りる前のチェックポイントにあります。
産休・育休・介護など、長く休みたいとき
利用者は雇われた労働者ではなく独立した事業者なので、休めるか、休む間の費用がどうなるかは、利用契約書の休会の定めだけで決まります。休会制度がなければ、「解約して再契約する」か「使わないまま払い続ける」かの二択になり、再契約では契約手数料や保証金をもう一度払う場合があります。
業務委託型の面貸し(店が施術を委託し、利用者が最低保証額などを店に払う型。美容室の面貸し契約書参照)には、別の論点があります。店が従業員を使う特定業務委託事業者に当たり、委託が政令で定める期間以上続くときは、利用者から申出があれば、妊娠・出産・育児・介護と両立できるよう必要な配慮をする義務があります(フリーランス法13条1項。期間が短い委託でも、配慮に努める義務があります。同条2項)。ただし、契約が実質的に業務の委託と評価される場合の話で、席を借りるだけの契約には当てはまりません。契約の名前ではなく中身で決まります。
同じ契約書の中で、こう並ぶことがあります
- 「売上が連続して一定額を下回ったときは継続の協議を申し入れる」と定めつつ、妊娠・出産・育児や家族の病気を、協議を猶予する事情に入れている。
- その一方で、「疾病や出勤不能が1か月以上続いたときは、催告なしで即時に解除できる」とも定めている。
- 病気が猶予されるのか解除されるのかが読めません。傷病や妊娠で稼働できない旨の休業の届出(見込み期間つき)が出ている間は即時解除の対象から外し、届出のない不在だけを対象にします。
最低保証額の型では、稼働できない月も最低保証額が残ります。休業の届出がある期間は減額する、または休会費に置き換える、と定めておくと、利用者は休みやすくなり、オーナーも連絡なく来なくなる事態を避けられます。診断書などは病歴を含みうる要配慮個人情報で(個人情報保護法2条3項)、個人情報取扱事業者が取得するには原則として本人の同意が必要です(同法20条2項)。提出は本人の任意とし、申出書の記載で足りる場合を設け、休会の可否の判断だけに使って廃棄する、と定めるのが穏当です。
休会制度は、どう設計すればよいか?
休会制度は、休む権利を与える制度というより、休む間の枠の費用をどう分けるかを決める制度です。枠を空けておくのか、ほかの人に貸すのかで、オーナーの収入が変わります。
| 項目 | 決めること | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 対象の事由と承諾 | 傷病、妊娠・出産・育児、介護など。条件を満たせば休めるのか、承諾が要るのか | 同じ事情でも対応が違うと受け取られる |
| 期間と申請の期限 | 1回の最長期間、延長、前月の所定の日までの申出と翌月初日からの開始 | 休会が事実上の席取りになる。月の途中の日割りで食い違う |
| 休会費 | ゼロ、月額の一定割合、定額のどれか。枠を確保する期間 | 休む間の負担感が人によって違う |
| 契約期間の進み方 | 休会期間を更新の判定と解約手数料の期間に数えるか | 休会明けに突然、更新や手数料の期限が来る |
| 復帰と期限後 | 復帰か退会かの通知の期限。通知がないまま満了したときは退会扱いにするか | 契約が宙に浮き、月額の請求も止まる |
3か月休会したとき、オーナーに入る月額の比べ方(仮の数字)
月額継続型は休会制度として使われにくく、枠返還型は復帰時に空きがないと戻れません。空き枠が出やすい施設ほど、休会費型のほうが収入を読みやすくなります。
よく詰まる点が三つあります。第一に、「休会の可否、回数、期間、条件は運営側の裁量で決め、通知の義務は負わない」と書く規約が見られますが、可否の基準と、承諾しないときの理由の伝え方を書いておくほうが、苦情を減らせます。第二に、「休会中も契約期間は進み、支払義務も変わらない」と書くと休会の意味がなくなるので、休会費と、期間への算入を同時に決めます。第三に、「承諾のない利用停止は休会として扱わない」という定めは月額を請求し続けるには有効ですが、連絡が取れない利用者への確認の手順と解除の条件も別に要ります。
規約型で運営している場合に休会制度を後から加えるなら、定型約款の変更は、相手方の一般の利益に適合するとき、または変更の必要性・内容の相当性などに照らして合理的なときに認められ、効力発生時期を定めた事前の周知が必要です(民法548条の4第1項・2項)。休会費の新設など不利な内容が混じるときは、合理性が問われます。規約の細目は時間貸しの利用規約にあります。
条文例:休会
第○条(休会) 乙は、傷病、妊娠、出産、育児、介護その他やむを得ない事情により本施設を一時的に利用できないときは、休会を希望する月の前月○日までに、甲所定の方法で申し出ることにより、休会することができる。休会は、申出の翌月初日から始まり、1回につき最長○か月とする。
乙は、休会期間中、月額利用料に代えて、月額利用料の○割に相当する休会費を毎月甲に支払う。甲は、休会期間中、乙のために施術スペースを確保する。
休会期間は、契約期間の更新の判定及び解約手数料の算定に係る期間に算入しない。
乙は、休会期間の満了の○日前までに、復帰又は解約の意思を甲に通知する。通知がないまま休会期間が満了したときは、満了日をもって乙から解約があったものとみなし、解約手数料は請求しない。
甲は、乙に休会の事情を示す資料の提出を強制しない。乙が任意に提出した資料は、休会の可否の判断にのみ用い、休会の終了後に遅滞なく廃棄する。
休会費の割合、期間の上限、枠を確保する期間は、固定費と空き枠の出やすさに合わせて決めます。
利用者が亡くなったとき、契約・保証金・私物はどうなるのか?
契約書が何も定めていないと、契約が終わるのか相続人に続くのかが契約の性質で変わり、オーナーは誰に何を請求し、誰に何を返すのかを決められません。
民法は、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが、被相続人の一身に専属したものは別、と定めています(896条)。使用貸借(無償で貸す契約)は借主の死亡で終了し(597条3項)、委任は当事者の死亡で終了します(653条1号。準委任にも準用されます。656条)。シェアサロンの利用契約は、どれにもきれいには当てはまらないため、契約の見え方ごとに出発点を確かめます。
| 契約の見え方 | 民法の出発点 | 死亡時に決めておくこと |
|---|---|---|
| 無償または名目的な料金で使わせる型 | 借主の死亡で終了(597条3項) | 鍵の返却と私物の引取り |
| 業務の委託として席を使わせる型 | 当事者の死亡で終了(653条1号、656条) | 最低保証額・保証金の精算、お客様への対応 |
| 専用の区画を継続して使い、月額を払う型 | 相続人が承継しうる(896条)。一身専属かは契約の中身で判断 | 承継を認めるか終了とするか、相続人の窓口 |
民法の定めは出発点で、契約書で別に定めるのが通常です。実務では、「死亡したときは、契約上の地位は相続されず、契約は当然に終了する」という当然終了型と、「相続人は遅滞なく通知し、運営側が承継を承諾しないときは通知から30日以内に解除できる」という通知・承継審査型が見られます。当然終了型は終わることだけを定めて、その後の精算を書いていない例が多く、通知・承継審査型には「期日までに解除しなければ、承継人は債務を一切放棄する」と続く例がありますが、未払い、原状回復の費用、将来の月額のどこまでを放棄するのかが読めません。終了日、精算の方法、連絡の窓口の三つを、はっきり書きます。
訃報を受けたときの、オーナーの手順(一例)
- 連絡の立場を確認し、記録する家族か相続人か。契約書に定めた方法で連絡を受けたかを確認し、日時と内容を記録する。
- 鍵・認証情報・予約枠を止めるスマートロック、予約システム、会計端末の利用を停止する。根拠は契約書の死亡時の条文に置く。
- 精算額を窓口に伝える日割りの月額、未払い、原状回復の実費、保証金の残額を、項目ごとに書面で示す。
- 私物の引取り日を決める保管の期間を決めて引き渡す。引取りがなくても勝手に処分せず、契約書の手順に従う。利用者トラブルの対処に残置物の手順がある。
未払いや原状回復の費用は、相続人が承継するのが原則です(896条)。ただ、相続人は、相続の開始を知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認、放棄のいずれかを選び(915条1項)、放棄されれば請求できないことがあります。オーナーが現実に頼れるのは、前払いの月額と保証金の範囲です。
緊急連絡先は、安否や所在を確かめる連絡先で、債務を負う人ではありません。連帯保証人を付ける場合は、利用料などの不特定の債務を保証する根保証になり、保証人が個人のときは極度額を定めないと効力が生じず(民法465条の2第2項)、主たる債務者が死亡すると元本が確定して(同法465条の4第1項3号)、その後に生じた債務は保証の対象になりません。死亡後の月額や片付けの費用が保証されるとは限らない点に注意します。
条文例:利用者の死亡
第○条(乙の死亡) 乙が死亡したときは、本契約は、死亡の日に終了する。ただし、乙の相続人が、死亡を知った日から○日以内に権利義務を承継する旨を甲に書面で申し出て、甲が承諾したときは、この限りでない。
乙の相続人は、乙の死亡を知ったときは、遅滞なく甲に通知し、連絡代表者を1名定めて届け出る。甲は、届出があるまで精算及び返還を留保でき、届出の後の通知、精算及び返還は連絡代表者に対して行う。
甲は、乙の死亡を知った後、直ちに、本施設の鍵及び認証情報の使用を停止し、乙の予約を取り消して予約済みの顧客に案内することができる。
死亡の日の翌日以後の月額利用料は、日割り計算により、精算に含めて返還する。甲は、第○条の保証金から、未払いの利用料、原状回復に要した実費その他乙の債務を差し引き、残額を、甲が死亡を知った日の属する月の末日から30日以内に、連絡代表者の指定する口座に返還する。
乙の私物は、甲が○日間保管し、連絡代表者に引き渡す。保管期間内に引取りがないときは、第○条の残置物の定めによる。
「解除しなければ債務を放棄する」という文言は置かず、精算の項目と返還の期限を書きます。日割りにするか、当月分を丸ごと精算に含めるかは設計の判断です。
保証金と前払いの月額は、どの場面でいくら戻るのか?
返す時期と差し引く項目を日付と項目で決めておくと、事由が変わっても同じ式で精算できます。事由ごとの扱いを表にしておくと、運用が揃います。
| 事由 | 前払いの月額 | 保証金 |
|---|---|---|
| 利用者の通常の解約 | 返金なし(予告期限に従った終了) | 明渡しの日から○日以内に返還 |
| 利用者の休会 | 休会費に置き換え。差額は翌月に充当 | 据え置き。休会中は充当しない |
| 病気・産休などによる解約 | 解約月の翌月以後の分は返還。手数料は免除 | 通常の解約と同じ |
| 利用者の死亡 | 死亡の日の翌日以後の分を日割りで返還 | 連絡代表者の口座へ返還 |
| オーナー都合の終了 | 利用できなかった期間を日割りで返還 | 償却せず全額を返還 |
返還の条項では三つの点で詰まりがちです。一つ目は時期で、「利用者が債務の履行を完了しない限り、返還義務を負わない」と書くと返す日が定まらないため、「契約の終了日(明渡しの日)から○日以内」と日付で書きます。二つ目は差し引く順序と、保証金を超える部分を別に請求できるかです。三つ目は返還先で、死亡のときは連絡代表者の口座とし、相続人が複数でも一人に払って足りるように定めます。保証金の一部を償却する(返さない)設計では、休会・病気・死亡のような本人に責任のない終了にも一律に適用すると、後で争いになりやすいため、事由で分けるか、償却の趣旨を書きます。
参考として、賃貸借の敷金について、民法は、賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けたときに、債務の額を差し引いた残額を返す、と定めています(622条の2第1項1号)。利用契約が賃貸借でなければ直接は適用されませんが、返還時期の参考になります。
利用者が月の途中で亡くなったときの精算(仮の数字)
日割りにせず当月分を精算に含める設計なら、24,000円の返還はなくなります。売上歩合の最終月の精算は料金プランと売上歩合の精算にあります。
予約・お客様・顧客データは、休む間や辞めるときにどう引き継ぐのか?
休む、辞める、亡くなる、のどの場面でも、最も急ぐのは、予約の入っているお客様への連絡です。誰が、いつまでに、どの手段で連絡するかを決めておくと、お客様の不満がオーナーに向かうのを防げます。
お客様と契約するのは利用者なので、予約の取消しの連絡もまず利用者が行います。ただ、入院や死亡では利用者自身が連絡できません。利用者が連絡できないときは、店が予約システムの権限で取消しの案内を送れる、と書いておき、費用の負担と、お客様が店に問い合わせたときの窓口も決めます。
病気の間、ほかの施術者に予約を任せたいという要望も出ますが、名義貸しと再委託は禁止されるのが通常です。代行を認めるなら、代行者を店と契約関係のある者や店が承諾した資格者に限り、お客様に事前に伝え、責任は利用者が負う形の例外にします。美容所の届出が必要な施術では、届出の範囲で施術できる者に限ります。
利用者が回数券やチケットを売っていると、休業・廃業・死亡の時点で、お客様の前払い残高が残ります。払戻しの責任はお客様と契約している利用者(死亡では相続人)にありますが、お客様は施設の名前を見て来ているため、問い合わせはオーナーに届きます。前払い残高の一覧を、求めがあれば店に示すこと、休業・廃業のときは利用者の責任と費用で払戻しまたは引継ぎを案内することを、契約書に書きます。
顧客情報は、利用者が集めたものは利用者のもの、店の予約窓口から来たものは店のもの、と出所で分けるのが一般的です。個人情報取扱事業者は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めます(個人情報保護法22条)。退去や死亡のとき、店のシステムに残る顧客のデータを、連絡代表者に返すのか、店が消すのかを決めます。辞める利用者の顧客を店が別の利用者に紹介したい場合は、個人データの第三者提供に当たり、原則として本人の同意が必要です(同法27条1項)。事業の承継に伴う提供は第三者に当たらない扱いですが(同条5項2号)、店が顧客を別の利用者に回すだけでは事業の承継とは言えません。お客様に、紹介を受けるかどうかを選んでもらう形にします。
オーナー側が休業・廃業・死亡したとき、利用者への約束はどうなるのか?
オーナーが場所を用意できなくなったときは、利用者の支払いが止まる場面が出ます。前払いと保証金を預かっている以上、終了の予告、前払い分の返還、保証金の返還を、オーナーの側の約束として書く必要があります。
債務の履行が、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者はその履行を請求できません(民法412条の2第1項)。オーナーの病気・死亡・廃業で、場所を使える状態に置けなくなれば、この履行不能に当たりうる場面です。双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときは、利用者は月額の履行を拒めます(同法536条1項)。債務の全部が不能なら、催告なしで解除もできます(同法542条1項1号)。運営が止まれば、利用者は払わなくてよく、契約を終わらせてよい、が出発点です。
ところが、運営側の契約書には、「提供の停止による損害は責任を負わない」「支払済みの料金は返還しない」と書かれた例が見られます。停止のときにも前払い分を返さないと読めるため、返金を求める請求の原因になります。直すなら、停止の前の予告、停止期間の月額の不発生、前払い分の日割り返還、保証金の返還の四つを書きます。
条文例:オーナー側の事情による終了
第○条(甲の事情による終了) 甲は、病気、事故、本施設に係る賃貸借契約の終了、事業の廃止その他の事情により本施設の運営を継続できなくなったときは、運営を終了する日の○日前までに乙に通知する。ただし、緊急の事情があるときは、遅滞なく通知する。
甲の事情により乙が本施設を利用できない期間は、月額利用料は発生しない。甲は、乙が既に支払った月額利用料のうち利用できなかった期間に相当する額を、日割り計算により、運営を終了する日から30日以内に返還する。
甲は、第○条の保証金を、前項の期間内に、乙の債務を差し引いたうえで返還する。償却の定めがあっても、本条の場合は償却しない。
甲が死亡したときは、甲の相続人又は甲があらかじめ乙に通知した連絡先は、遅滞なく乙に連絡し、本条に従って精算する。
予告の日数は、利用者が次の場所を探す期間を見込んで決めます。物件側の事情で終わる場合は開業前に整える契約のページにあります。
オーナー個人が亡くなると、相続人が貸主としての権利義務を承継しうる(896条)点は、利用者の死亡と同じです。ただ、物件の賃貸借契約、利用者との契約、預かった保証金の返還義務を一度に引き継ぐため、事情を知らない相続人には負担が大きくなります。連絡先をあらかじめ利用者に通知し、物件の契約書、利用者の一覧、保証金の台帳、鍵や予約システムの管理情報の保管先を、引継ぎ書にまとめておくのが実務の備えです。
事業を第三者に譲るときは、契約の相手方が譲渡を承諾したときに、契約上の地位が移ります(民法539条の2)。利用者が多いと個別の承諾は負担なので、契約書に、事業の譲渡に伴う貸主の地位の移転への事前の包括承諾と、移すときの通知、移す先が保証金の返還と前払い分の精算を引き継ぐことを書いておく方法があります。転貸している物件では、原契約の終わり方との関係を間借り契約書・転貸の承諾・サブリースのページに整理しています。
よくある失敗と直し方、確認の問い、起きがちなこと
契約書の点検は、誤りやすい条項、オーナーへの確認、現場で起きがちなことの順で見ると、漏れが減ります。
よくある失敗と直し方
書き方の例(一般的な例):休会・死亡・運営側の終了
| 場面 | よくある書き方 | 整えた書き方 | 整える理由 |
|---|---|---|---|
| 休会の承諾 | 可否・回数・期間・条件を運営側の裁量で決め、通知の義務は負わない | 事由、期間の上限、申請の期限を書き、承諾しないときは理由を伝える | 基準がないと、同じ事情でも対応が違うと受け取られる |
| 利用者の死亡 | 死亡したときは、契約上の地位は相続されず、契約は当然に終了する | 終了日、日割りの精算、保証金の返還先と期限、私物の引渡しを併せて書く | 終了だけ定めても、その後の精算が決まらない |
| 相続人の通知 | 期日までに解除しなければ、承継人は債務を一切放棄する | 放棄の文言を置かず、未払い・原状回復・返還の項目を書く | 何を放棄するのか読めず、未払いまで消えると読まれうる |
| 保証金の返還 | 債務の履行を完了しない限り、返還義務を負わない | 契約の終了日から○日以内。充当の順序と超過分の請求を書く | 返す日が定まらず、返還を引き延ばしていると見られる |
| 解約手数料 | 1年未満の解約は月額の3か月分を14日以内に払わなければ、解約は無効 | 傷病・妊娠・死亡など本人に責任のない事由は免除または減額。未払いは通常の債権として請求 | 払うまで抜けられない構造は、過大な拘束として争われうる |
ヒヤリングで確認すること
契約書を直す前に、オーナーに確認したい問い
休会中の枠を、ほかの人に貸すことはありますか。
- 聞く理由
- 枠を空けておくか返してもらうかで、休会費型か枠返還型かが決まる。
- 気になる答えの例
- 空き枠を貸した例がないのに枠返還型にしたい。復帰時に空きがなく苦情になる。
保証金を預かっていますか。返す日と差し引く項目は決めていますか。
- 聞く理由
- 死亡や休会のときの返還先と期限が、契約書から読めるかを確かめる。
- 気になる答えの例
- 「問題がなければ返す」とだけ決まっていて、日付がない。
利用者が、回数券やチケットなどの前払いを販売していますか。
- 聞く理由
- 休業・廃業・死亡のとき、払戻しの問い合わせが店に届く。残高の一覧の提示を求める根拠が要る。
- 気になる答えの例
- 前払いの有無を把握しておらず、辞めた後の問い合わせで初めて知る。
オーナーに万一のことがあったとき、利用者に連絡して保証金の返還を進める人はいますか。
- 聞く理由
- 運営側の終了は、前払い分と保証金の返還の問題になる。連絡先がないと、利用者も相続人も動けない。
- 気になる答えの例
- 鍵、口座、保証金の台帳が、オーナー本人だけの手元にある。
起きがちなこと
休会・病気・死亡・廃業の場面で、起きがちなこと
入院した利用者が、解約を通知したが期限に間に合わなかった
- 起きがちなこと
- 終了が2か月先になり、使えない間の月額に解約手数料も加わる。利用者が支払いを止めて連絡が途絶える。
- 先に確認すること
- 傷病を事由とする例外、診断書を要しない申出、手数料の免除があるか。
利用者が亡くなり、家族から連絡が来た
- 起きがちなこと
- 予約済みのお客様、保証金の返還先、私物の引取りの相談が同時に来る。相続人が複数で、窓口が分からない。
- 先に確認すること
- 死亡時の条文、連絡代表者の定め、予約システムから取消しを案内できる権限があるか。
利用者が突然、廃業を告げた
- 起きがちなこと
- お客様の前払いのチケットが残り、問い合わせが店に来る。顧客のデータが店のシステムに残る。
- 先に確認すること
- 前払い残高の一覧の提示、お客様への案内の責任、退去時のデータの返還・消去があるか。
よくあるご質問
利用者が病気で数か月使えなくても、月額は請求できますか?
契約書に例外がなければ、場所を使える状態に置いているため、月額は原則として請求できます。ただ、解約手数料が重なると利用者の負担が大きくなり、争いになりやすいので、傷病を事由とする休会や手数料の免除を定めておくほうが運営は安定します。時間制や回数制なら、使わなかった分は発生しません。
休会制度をつくるとき、休会費は何を基準に決めればよいですか?
休会中の枠を空けておく費用を基準にします。枠を確保するなら月額の一定割合を休会費とし、枠を返してもらうなら休会費をゼロにして、復帰時に空きがあれば再び使える形にします。休会期間を契約期間と解約手数料の期間に算入するかも、同時に決めます。
利用者が亡くなったとき、契約は自動的に終わりますか?
民法の出発点では、相続人は被相続人の権利義務を承継しますが、一身に専属したものは別です(896条)。利用契約がどちらに当たるかは契約の中身で決まるため、死亡の日に終了すること、精算の項目、返還先を契約書に書いておくのが通常です。
利用者が亡くなった場合、保証金は誰に返せばよいですか?
相続人です。相続人が複数いるときは、連絡代表者を1名届け出てもらい、その口座に返す定めにしておくと、後から別の相続人に請求されるおそれを減らせます。返還の前に、相続人であることを確認できる書類の提示を求める定めも置きます。
オーナーが運営を続けられなくなったとき、利用者に前払い分を返す必要がありますか?
場所を使える状態に置けなくなれば、利用者は月額の支払いを拒めるのが出発点です(民法536条1項)。運営側の契約書でも、利用できなかった期間の月額を日割りで返還し、保証金を返す定めを置くのが、利用者の信頼と運営側の備えの両面から適切です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の施設に必要な対応は、物件の契約内容、利用者の業種、料金の受け取り方によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 法務省 / 公正取引委員会 フリーランス法