このページの要点
- 施設の利用許諾、開業支援(準委任と見られる)、運営費・共益費の精算は性質が違う。契約金をまとめず、それぞれの精算方法を決める。
- 専用区画の占有を認めるなら、図面で場所を特定し、期間・更新・終了・明渡しを賃貸借の考え方で書く。借家人に不利な特約は借地借家法30条で無効になる。
- 契約金は締結時と開業日の二回に分ける型がある。開業日の定義を一つにし、開業できなかった原因ごとに返還の基準を書く。
- 支援項目は本文に書き出し、含まれない費用は目安額つきで列挙する。申請書類の作成を契約金の対価にすると、行政書士法19条1項との関係を点検する必要がある。
一本の契約書に入っている三つの取引
独立を目指す施術者に、施設の一画と開業までの支援をひとまとめにして提供するパッケージは、運営者にとって収入の柱になり、利用者にとっては初期の負担を抑える手段になります。一方で、契約書の作りは複雑になりがちです。まず、中に何が入っているのかを分けて眺めます。募集の段階で「初期費用ゼロ」などとうたう場合の表示の注意は、利用者募集広告の表示と景品表示法のページで説明しています。
| 部分 | 中身 | 法律上の性質の見方 | 書くべき要点 |
|---|---|---|---|
| 利用許諾 | 専用区画と共用部分を使わせる | 占有を伴えば賃貸借に近づく。占有を伴わない一時的な利用なら利用許諾 | 場所の特定、占有の有無、期間、原契約との関係 |
| 開業支援 | 開業スケジュール、設備や人材の手配の補助、助言、情報提供 | 事務の処理を任せる準委任と見られることが多い(民法656条) | 支援の項目、期限、成果を保証するか否か、含まれない費用 |
| 運営費・共益費 | 固定の運営費と、売上に連動する負担 | 継続的な対価の精算 | 計算の基礎、支払期限、売上明細の提出と閲覧、遅延損害金 |
開業支援は、準委任として捉えると整理しやすくなります。準委任は、法律行為でない事務の委託で、委任の規定が準用されます(民法656条)。受任者は、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(644条)、委任者の請求があるときはいつでも処理の状況を報告します(645条)。報酬は、特約がなければ請求できず(648条1項)、委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて請求できます(同条3項2号)。つまり、支援を「途中まで履行した」状態で契約が終われば、全額でも零でもなく、履行の割合で精算する、というのが民法の出発点です。契約書でこの精算を別の形に定めるときは、その旨を明確に書く必要があります。
また、委任は、各当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期に解除したとき、又は委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときは、やむを得ない事由がある場合を除き、相手方の損害を賠償しなければなりません(同条2項)。支援契約を長期の契約として一体で扱いたいなら、任意解約の制限と、解約時の精算を契約書に書いておくのが一般的です。なお、医療機関の開業支援や共同経営の契約は別のガイドで扱い、このページでは、サロンや施術スペースを使わせる側の契約に絞ります。
専用区画の占有を認めるときの書き方
シェアサロンや面貸しは、多くの場合、占有を与えない設計にします。物件の貸主の承諾との関係と、借家人保護の規定が及ぶのを避けるためです。この点は面貸し契約のページと間借り契約のページで説明しています。開業支援付きのパッケージは、これとは違う発想をとることがあります。独立開業の準備をする利用者に、他の人が入らない専用区画を渡し、機器や内装も利用者のものとして置かせる形です。この場合は、占有を認めることを前提に、書き方を組み立てます。専用区画を増やすときに消防法・建築基準法の面で確認することについては、消防法・建築基準法の見方と、収容人員の計算例・区画割りの契約条項の記事で詳しく説明しています。
- 専用部分と共用部分を、図面を別紙にして区別し、契約書の中で場所を特定する
- 専用部分は、許可した用途に限って占有的に使用できることを明記する
- 共用部分は、他の利用者と共同で使い、運営者が定める施設の運用ルールに従う
- 営業日と営業時間は、利用者が決められるのか、運営者の同意が要るのかを書く。変更の手順(事前の通知、同意)も決める
- 他の入居者との調和のために、運営者が合理的な範囲で調整を求められることを書く
- 利用者の機器・什器・消耗品は利用者の所有と管理とし、共用設備は運営者のルールに従う
占有を認めたときに、まず気をつけたいのは、契約書の題名や性質条項の文言に関係なく、実態が賃貸借であれば賃貸借として扱われる点です。建物の賃貸借に関する借地借家法の規定のうち、借家人に不利な特約は無効とされます(借地借家法30条)。契約書で「賃貸借ではない」と書き、あるいは借地借家法の適用を受けないことを承諾させても、実態が賃貸借なら、それだけで借家人の保護が外れるわけではありません。占有を認める設計にするのなら、契約の期間、更新、終了、明渡しの手続を、賃貸借の考え方に沿って、あらためて自分で書き直すほうが現実的です。
次に、運営者自身がその施設を借りている場合の問題があります。借りた物件を第三者に使わせるには、貸主の承諾が必要です(民法612条1項)。承諾なく第三者に使用させれば、貸主は契約を解除できます(同条2項)。開業支援付きの契約では、専用区画の占有まで認めるため、貸主の承諾の範囲が「第三者が占有して営業する」ことまで及んでいるかを、より丁寧に確認する必要があります。運営者が借りている施設の契約が終わった場合の扱い(利用者の契約も終えるのか、貸主の地位を引き継がせるのか)は、利用者の投資に直結します。そのため、契約書に「原契約が終了したときの処理」の条項を置き、利用者に原契約の存在と満了予定を知らせておきます。この点の考え方は間借り契約のページのサブリースの項目と同じです。
最後に、運営者が利用者の業務に指揮命令をしないことを明記します。占有を認め、営業時間まで定めるパッケージは、運営者が利用者の営業を管理しているようにも見えます。利用者は独立した事業者で、自分の名義と費用と責任で営業し、運営者は指揮命令権も報酬支払義務も負わないことを書いておきます。ただし、書くだけでなく、実際の運用も合わせる必要があります。営業時間や接客の方法を細かく指示する、売上を運営者が全部管理する、といった運用が積み重なれば、独立性は損なわれます。
契約金を二回に分ける:開業できなかったときのリスク分担
支援の対価としての契約金を、契約の締結時と開業日の二回に分ける設計があります。締結時に全額を受け取る設計と比べて、開業が実現しなかったときのリスクを、利用者だけが負わないようにする効果があります。分けるときは、「開業日」を何で決めるかが最も重要です。
契約書を作る運営者が決めること
- 「開業日」の定義を契約書の中で一つにする(営業を実際に開始した日、運営者が通知した日、など)
- 定義が複数の条項に出てくるときは、すべて同じ意味にそろえる
- 開業日を運営者の通知で確定させるなら、通知を出す時期の限度を書く
- 開業が遅れる事情(許可、工事、人材)を、遅れの責任の所在ごとに分ける
契約する利用者が確認すること
- 第1回の支払期限と支払方法を確認する
- 第2回の支払いが、開業日にのみ発生することを確認する
- 開業できなかった場合の返還の範囲を、書面で確認する
- 支援の履行状況の報告を求める権利を確認する
開業日の定義が条項ごとに食い違うと、第2回の支払時期も、契約期間の起算日も、争いの種になります。開業日の意味が一つに決まっていないと、どの日を基準にするのか読み取れなくなります。契約書を作り終えた後で、「開業日」の語が出てくる全ての箇所を並べて確認する作業が欠かせません。
開業できなかったときの扱いは、原因ごとに分けて書くと整理できます。
| 開業できなかった原因 | 契約書に書く内容の例 | 民法の関係する規定 |
|---|---|---|
| 運営者の事情(施設が使えない、支援の主要項目が履行されない) | 第1回の契約金の全部又は一部を返還する。返還額の計算方法を書く | 債務不履行による解除と損害賠償(民法415条、541条、542条)、解除による原状回復(545条) |
| 利用者の事情(資格や許可を取れない、本人の都合で辞退する) | 支援の履行済みの割合に応じた額を差し引いて精算する、又は返還しない旨を、条件を付して書く | 履行の割合に応じた報酬(民法648条3項) |
| どちらの責めにもよらない事情(災害、制度の変更) | 双方が負担する費用の割り振りと、再開の協議の手順を書く | 双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったとき、債権者は反対給付(対価)の履行を拒むことができる(民法536条1項) |
「契約金は、いかなる理由があっても返還しない。ただし、運営者が認めた場合に限り、協議により全部又は一部を返還できる」という書き方は、一見すると運営者を守りますが、返還の基準が書かれていないため、争いになったときに機能しません。協議に任せる部分を残しつつ、その前に、返還が必要な典型的な場合と、その計算の方法を数式や表で書いておくのが、争いを減らす書き方です。
条文例:契約金の支払と返還
利用者は、支援の対価として、契約金○円(税込)を、次のとおり分割して支払う。
(1)本契約の締結日から○日以内に、契約金の所定の割合の額。
(2)開業日に、残額。
運営者の責めに帰すべき事由により、開業日までに本施設の使用が不能となった場合、又は別紙の支援項目のうち主要なものが履行されなかった場合は、運営者は、既に受領した契約金から、履行済みの支援項目に対応する別紙の額を差し引いた額を、利用者に返還する。
前項に定める場合を除き、契約金は返還しない。ただし、第1項第2号の残額は、開業日が到来しない限り、請求しない。
(書き方の例)金額や割合は、支援の内容に応じて決めます。履行済みの支援項目に応じた額を別紙で示しておくと、返還の計算に争いが出にくくなります。
契約金の返還や解約をめぐる条項は、利用者が個人であっても、事業のために契約する個人は消費者契約法上の「事業者」にあたるため(同法2条2項)、同法の対象外になる場合があります。ただし、開業準備の段階の個人の位置づけは事情によって評価が分かれます。返還の条項を作る際は、解除に伴う違約金や損害賠償の予定が平均的な損害を超えないように(同法9条1項1号の考え方)、水準を見ておくのが安全です。
支援の内容を本文に書き出し、「含まれない費用」を示す
支援の内容を別紙に任せ、その別紙が契約時に未作成のまま締結される、という事態は避けたいところです。支援の内容は契約本文に書き出し、別紙は図面や一覧などの補足に限る、と構成するのが安全です。支援の項目は、時期ごとに三つに分けると読みやすくなります。
| 時期 | 支援項目の例 | 書くときの注意 |
|---|---|---|
| 開業前の準備 | 開業スケジュールの策定と進捗管理、施設や区画の調整、内装に関する助言、設備や人材の手配の補助、予約・会計の仕組みの整備の補助 | 「補助」「助言」「手配の補助」など、運営者が行う範囲を動詞で書く。許認可の取得や審査の通過を保証しない |
| 開業直前と開業後 | 届出の相談、開業告知の基本的な助言、一定期間の運営の調整支援 | 「開業後○か月間」のように期間を区切る |
| 継続的な支援 | 業務フローの整備、制度の情報提供、定期的な相談(電子メールやオンライン) | 回数や方法を書く。無制限の相談を約束しない |
支援の項目と並んで重要なのが、契約金に含まれない費用の一覧です。含まれない費用が書かれていないと、利用者は「契約金で全部が済む」と誤解し、開業の直前になって追加費用の請求が来て揉めます。含まれない費用の例としては、行政への届出や申請に必要な費用、機器・什器・備品・消耗品の購入と設置、専用区画の内装工事の費用などがあります。費用ごとに目安の額を示し、「目安であり、実際の額は変動する」と書いておくと、利用者の資金計画にも役立ちます。
支援の内容に「申請書類の作成支援」を入れる場合には、さらに点検が必要です。他人の依頼を受け、報酬を得て、官公署に提出する書類を作成することは、行政書士法1条の3が行政書士の業務としており、同法19条1項は、行政書士又は行政書士法人でない者が、報酬を得て業として行うことを制限しています(他の法律に別段の定めがある場合を除く)。契約金の対価として運営者が利用者の申請書類を作成する約束になっていないか、確認してください。支援の範囲は、助言、情報提供、手配の補助にとどめ、申請書類は利用者本人が作成する、と書き分けるのが一般的です。許認可のうち保健所への届出などの扱いは、施設を運営する形によって異なるため、所管の窓口に確認しながら進めます。
募集の説明にも注意が必要です。開業支援を売りにして、運営者が顧客の紹介や仕事のあっせんをし、その収入を示して契約金を取る形になる場合、特定商取引法の業務提供誘引販売取引に当たる可能性があります(同法51条)。同条は、物品の販売や有償の役務の提供(あっせんを含む)の事業で、その役務を利用する業務に従事して得られる利益を得られると誘引し、特定負担(役務の対価の支払や、登録料・保証金などの取引料の提供)を伴う取引をする場合を指します。当たる場合には、不実のことを告げる行為などの禁止、誇大広告等の禁止、契約書面の受領から20日以内の契約の解除などの規制が関係します(同法第5章の規定)。もっとも、相手方がどのような立場の人か、取引の実態がどうかによって、規制の及ぶ範囲が変わります。施設で営業する利用者との契約にどこまで及ぶかは、取引の実態で判断されます。ここでは断定せず、募集の段階で「売上や収入を保証しない」「収入は利用者自身の集客と営業による」旨を、広告と契約書で一致させておくことが、どの場合にも通じる備えになります。
書き方の例(一般的な例):開業支援付きの契約の書き方
| 場面 | よくある書き方 | 整えた書き方 | 整える理由 |
|---|---|---|---|
| 支援の内容 | 「開業に必要な一切の支援を行う」 | 支援項目を本文に列挙し、行う範囲を「助言」「補助」などの語で限定する | 範囲が無限定だと、何を履行すれば足りるのかが争いになるため |
| 含まれない費用 | 記載なし、又は「実費は別途」とだけ書く | 費用の種類を列挙し、目安の額と、実額は変動する旨を書く | 追加費用の誤認や、開業直前の請求による争いを防ぐため |
| 別紙 | 支援内容を別紙に委ね、別紙を後で作る | 支援内容は本文に書き、別紙は図面や一覧に限る | 別紙が未作成のまま締結される危険を避けるため |
| 成果の保証 | 「必ず開業できる」「必ず許可が取れる」 | 許可・審査・採用の結果は保証しない旨を書き、支援の履行そのものを約束する | 結果に左右される事項を保証すると、不履行の主張を招くため |
固定運営費と売上連動の共益費、売上明細の提出と閲覧
開業後に続く費用は、固定の運営費と、売上に連動する共益費の組合せで定める型があります。ここでは、パッケージ型の契約に固有の点に絞ります。売上歩合の精算の一般的な型はシェアサロンの料金プランと売上歩合の精算のページで、条文の基本形はシェアサロン利用契約書・利用規約のページで扱っています。
- 固定運営費:物価や公共料金の変動を踏まえて見直しを求められる旨と、見直しの手順(協議、通知の時期)を書く
- 共益費:売上高に所定の割合を乗じて計算する。売上の範囲(現金、カード、その他の決済、物販、値引き、返金の扱い)と、税込か税別かを明記する
- 支払時期:月末に計算を締め、翌月の一定の日までに支払う。振込手数料の負担も決める
- 遅延損害金:利率を数字で書く。「相当な利率」といったあいまいな書き方にしない
売上の把握の方法は、二つの型に分けて考えられます。一つは、利用者が自分で売上を受け取り、記録し、毎月、運営者の指定する様式の売上明細書を提出する型です。もう一つは、運営者が定める決済の仕組みを通して売上を処理する型です。後者の型では、利用者が自分の売上を確認できなくなる危険があるため、利用者が日次、又は少なくとも一定の頻度で売上のデータにアクセスできる権利を契約書に書いておきます。運営者が売上の記録を保存し、利用者の合理的な請求に応じて一定の期間分を開示する義務も合わせて定めます。保存期間は、帳簿の保存に関する一般的な期間に合わせる例が多く見られます。
売上の精算を設計するときに、あらかじめ決めておく問い
問い:共益費の計算の基礎になる「売上」に、物販やキャンセル料のような収入を含めるか
含める範囲が曖昧だと、毎月の計算で食い違い、明細の確認のたびに争いが起こります。
問い:売上明細書に、どの項目(科目別、入金日、決済方法別)を入れるか
明細の項目が足りないと、共益費の計算の検証ができません。項目を決めておけば、提出する側の負担も明確になります。
問い:明細に誤りがあったとき、どちらがどの期限までに訂正を求められるか
訂正の期限を決めないと、数か月後に過去分の再計算を求められます。一定の期間内に異議がなければ確定する方式も使えます。
問い:運営者が定める決済の仕組みを使わせるとき、利用者のデータの閲覧権をどう保障するか
運営者側が売上のデータを握ると、利用者が自分の帳簿を作れなくなります。閲覧と出力の権利が実質的に使えることを確認します。
問い:売上データに含まれるお客様の個人情報を、どちらが管理し、どこまで見られるか
お客様の氏名や連絡先は個人情報です。目的の範囲、改ざんの防止、漏えい時の責任を、契約書で決めておきます。
外国人の施術者に使わせる場合:在留資格と契約書の言語、お金の性質の区別
外国人の施術者に施設を使わせる場合には、通常の契約に加えて三つの点に気を配る必要があります。
第一に、在留資格です。出入国管理及び難民認定法73条の2第1項1号は、事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者を、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めています。同条2項は、外国人の活動が在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であることを知らなかった場合でも、過失がなければ別として、処罰を免れないとしています。施設を使わせる側が、利用者の在留資格で、その営業が認められるのかを確認しないまま貸すことには、このようなリスクがあります。契約書には、利用者が自分の在留資格に応じた活動の範囲を確認し、その資格で営業できることを表明・保証する条項を置き、確認の資料の提示を利用開始の条件とします。在留資格の申請などの手続は利用者本人の責任で行うものとし、運営者の支援を書くときも、助言や情報提供にとどめます。
第二に、言語です。和文と英文を並べて契約書を作る場合は、どちらを正本とするかを決めます。両方を同等の効力とすると、訳の違いが解釈の争いになります。一般に、日本の法令に準拠して日本で履行する契約であれば、和文を正本とし、英文は理解のための訳とすると整理が単純です。ただし、相手が英文を正本と考えていると合意が難しくなるため、事前に確認します。準拠法と紛争解決の条項も、和文と英文で食い違わないよう一つの流れにまとめます。
第三に、金銭の性質の区別です。これは外国人の施術者に限らず共通する点ですが、契約金(支援の対価)と保証金(債務の担保として預かるお金)は、性質も返還の条件も異なります。一つの契約書の中で「返還しない」「返還する」「協議する」を混在させると、どのお金がどの条件で戻るのかが分からなくなります。お金の種類ごとに条項を分け、返還の条件と時期を別々に書きます。
契約期間・解約・終了時の精算
契約の期間は、開業日を起算日にして、一定年数の期間とし、以後は一定期間ごとに自動更新する型があります。更新しないときの通知期限と通知の方法も決めておきます。終了の通知は、内容証明郵便、書留郵便、双方が合意した電子的な方法などの、到達を確認できる方法で行い、到達した日に効力を生じる、と書くのが一般的です。
- 任意解約:予告期間を置いて、理由を問わずに解約できるか。運営者と利用者の双方に認めるか
- 即時解除の事由:支払いの停止、倒産手続の申立て、重大な義務違反で一定期間内に是正されないとき、運営者が借りている施設の契約が終了したとき
- 解除に伴う損害賠償:逸失利益や間接損害を、予見可能だった場合に限って請求できるとする例
- 原状回復:専用区画に置いた物品の撤去、契約開始時の状態への回復、撤去後に双方で状態を確認する手順(確認の方法は利用者トラブルの対処のページも参照)。通常の使用による経年劣化と不可抗力による損耗は対象外とする
- 利用者が原状回復をしないときは、運営者が代わって行い、実費を請求できること
- 秘密保持:開示された情報の返還・廃棄と、終了後も続く義務
運営者が借りている施設の契約が終了したことを、利用者との契約の解除事由にする書き方は、運営者を守る反面、利用者に大きな負担をかけます。利用者は専用区画に設備や内装の投資をしているため、突然の解除は、損失が大きくなります。原契約の満了予定を事前に知らせ、満了の一定期間前に通知する、移転先の協議をする、といった緩衝の条項を入れると、契約が受け入れられやすくなります。利用者側が契約を結ぶ前に確認しておきたいことは、シェアサロンを借りる前のチェックポイントのページにもまとめています。
起きがちなことと、契約書での備え
最後に、開業支援付きの施設利用契約でよく起きる場面を、型に分けて整理します。
| 起きがちなこと | 原因 | 備え |
|---|---|---|
| 開業が遅れ、契約金の残りを払うか揉めた | 「開業日」の定義が複数あり、第2回の支払時期が読み取れなかった | 開業日の定義を一つにし、通知による確定にするなら通知の期限を書く |
| 追加費用の請求で、利用者が「聞いていない」と言った | 含まれない費用の一覧がなく、目安の額も示していなかった | 含まれない費用を種類ごとに列挙し、目安の額と変動する旨を書く |
| 支援が途中で止まったが、契約金の精算ができなかった | 返還の基準がなく、「協議する」だけだった | 返還が必要な場合と、履行済みの支援に応じた計算方法を書く |
| 売上の共益費が合わず、毎月やり取りが続いた | 売上の範囲、明細の項目、訂正の期限が決まっていなかった | 売上の定義、明細の項目、異議の期間を決める |
| 運営者が借りている施設の契約が終わり、利用者が行き場を失った | 原契約の満了予定が伝わっておらず、終了時の扱いも書いていなかった | 原契約の存在と満了予定を知らせ、終了時の予告と協議の条項を置く |
| 和文と英文で内容が食い違った | どちらが正本かを決めず、翻訳の確認もなかった | 正本を決め、準拠法と紛争解決の条項を一つの流れにする |
| 専用区画が実質的に賃貸借と評価された | 占有を認めたのに、期間・更新・終了を賃貸借の考え方で整理していなかった | 占有を認める前提で、期間・更新・終了・明渡しの条項を書く |
開業支援付きの施設利用契約は、一つの契約金で多くのものを受け渡すため、「何を・いつ・いくらで・できなかったときにどうするか」の四つが、利用許諾・支援・運営費のそれぞれに必要です。三つの取引を分けて書き、それぞれで精算の方法を決めておけば、開業という大きな節目の前後でも、運営者と利用者の双方が落ち着いて契約を進められます。運営中の利用者との関係については利用者トラブルの対処のページも参考になります。
よくあるご質問
開業支援の契約金を、締結時と開業日の二回に分けるのはなぜですか?
開業が実現しなかったときのリスクを、利用者だけが負わないようにするためです。分けるときは、「開業日」を何で決めるかを契約書の中で一つにそろえ、第2回の支払時期が読み取れるようにします。
契約金に含まれない費用は、どこまで書いておくべきですか?
行政への届出や申請の費用、機器・什器・消耗品、専用区画の内装工事の費用などを種類ごとに列挙し、目安の額と、実額は変動する旨を書いておくと、追加費用をめぐる誤解を防げます。
専用区画を占有させる契約でも、賃貸借にならないと書けば足りますか?
書くだけでは足りません。借地借家法30条は、建物の賃貸借の規定に反する借家人に不利な特約を無効としており、実態が賃貸借なら賃貸借として扱われます。占有を認めるなら、期間・更新・終了・明渡しを自分で整理して書きます。
売上に連動する共益費で、売上明細についてどんな定めが必要ですか?
売上の範囲と、税込か税別かを明記し、売上明細書の提出期限と項目、訂正を求められる期限を決めます。運営者がレジで売上を管理するときは、利用者が売上データを見られる権利も保障します。
外国人の施術者に施設を使わせるとき、貸す側が気をつけることはありますか?
在留資格で認められる活動の範囲を確認することが重要です。出入国管理及び難民認定法(入管法)73条の2は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者を処罰の対象としています。利用者に資格の範囲での営業を表明・保証させ、確認資料の提示を利用開始の条件にします。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の施設に必要な対応は、物件の契約内容、利用者の業種、料金の受け取り方によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 法務省 / 公正取引委員会 フリーランス法